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19.不思議の国は夢の彼方


「なあ、ムカデ一位とかうちのクラスやばくね?」

「平助くんが体育係で引っ張ってくれたおかげだよ」

「それより、凜と一くんは?」

「ああ、もう着替えに行ったみたいだぜ」


生徒の応援席に行くと、既に凜と斎藤の姿はなく、平助、総司、雪村がいた。


「よ。調子はどうだ?」

「左之先生じゃん。サングラス、イカすね」

「どうしたんだよ、先生がこんなところで油売って」

「次スウェーデンリレーだろ?凜と斎藤を見に来たんだよ。あいつら何着るんだ?」

「見てからのお楽しみです。気合い入れて選んじゃいました」


雪村が珍しく意気込んでいるのを見て、これは期待する価値があると思った。



トラックが突然騒がしくなって、伝染するように運動場がざわついた。

観覧者の視線の先には予想通りの二人の人物。


カメラのフラッシュを浴びながら恥ずかしそうにはにかむアリスの衣装を纏った凜。隣には顔を少し染めて無表情で佇む帽子屋衣装の斎藤。


「へえ。アリスコスかあ。やるね、千鶴ちゃん」

「斎藤さんには本当は白うさぎの格好を薦めたんですけど、嫌がられてしまって…」

「ぷ、斎藤がうさ耳か…。……それにしても、凄い騒がれようだな」

「まあ、凜と斎藤くんだし」

「だよな。いいなー、一くん。俺もコスプレして凜と写真うつりてー!」

「もしそうならなんの格好するの?」

「平助はトランプでいいんじゃない?」

「ちょ、トランプはねえだろ!せめて主要人物で…」


総司に喚く平助をよそに、凜と斎藤はトラックを歩きだす。歩く度に光るフラッシュに戸惑いながらもスカートのフリルを揺らして笑う凜は、斎藤の隣にいるせいかとても嬉しそうだ。

二人がちょうど俺達の前に来た時、斎藤の顔がさらに赤くなっていた。なかなかに珍しいもんだ。


「千鶴ー!こんなチンケになっちゃったけど…」

「大丈夫、ぴったりだよ、凜ちゃん!」

「ふーん。馬子にも衣装だね」

「総司…それ褒めてないでしょ。あれ、左之兄。なんで生徒席にいるの?」

「凜。似合ってるぜ」

「…あ、ありがと。斎藤くんも格好いいでしょ?」


照れながらも自慢げに笑う凜はかわいい。

ああ、かわいいかわいい。


「ちょ、左之兄。カチューシャずれる…」

「……(かわいいかわいい)」


アリス凜の頭を撫で回すと、大量のフラッシュにたかられたが、凜のファンクラブの奴らのだと思うと、見せつけたくなってさらに優しく頭を撫でた。


「東城、移動するぞ」

「え?あ…」


斎藤がやたらと不機嫌な顔で凜の手首を掴んだ。

凜は瞬時に赤くなって瞳を泳がせる。


「じゃ、じゃあね、皆!」


真っ赤になった俺の可愛いアリスは帽子屋に連行されていった。


「…俺、今ならトランプなんて言わずに芋虫のコスプレだってできるぜ…」

「止めときなよ。アリスの隣は帽子屋ってきまってるんだから」

「そうか?…まあ、芋虫があの破壊力満点のアリスと校庭歩いてたらある意味壮絶な光景だがな」

「うう…俺もスウェーデンリレー立候補すればよかったぜ…!」

「平助くんは体育係だから仕方ないよ…」

「あーあ。いつもずるいよね、一くん」

「それは言えてる!いっつも一くんばっかり凜といちゃいちゃしてさー!」


凜が斎藤をよく見てることは知ってたが、ただ単なる憧れだと…思いたい。


「凜…まさかの斎藤か…?」

「ありえなくはないですよ。凜、一くんの前だとずいぶんしおらしくなりますから。ムカつくことにね」

「そこんとこどうなんだろうな。雪村なにか聞いてるか?」

「えっと…時々格好いいって話してるのは聞きますよ」

「それってやべえよな!俺も一くんなんかに負けてられないぜ」

「平助は素直でいいな」

「素直っていうより、率直っていうか、単純っていうか。ま、平助らしいっちゃらしいけど」




まあとにかく、そんなこんなで凜と斎藤は着実にファンを増やしながら得点を稼いだのだった。





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