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1.序章その1


どうも、みなさんこんにちは。東城凜です。薄桜学園2年F組、保健委員、機械体操部。趣味は音楽、特技は3秒で寝られること。身長160cm、黒髪ショート。

こんな私ですが、薄桜学園での愉快な日常を紹介していこうと思います。
肩の力を抜いて、気楽に聞いてね。








「……平助、へ・い・す・け!!」


チュンチュンと爽やかな朝空に雀が歌う声をバックに、あたしはもう日課と言っても過言ではない、朝の発声練習……をしていた。

枕を抱いて、腹立つほどあどけない姿で眠っているのはクラスメイトの藤堂平助。


「起きて!!遅刻!!土方先生に怒られるよ!」


あの鬼の教頭のあだ名を持つ担任は、怒り出したら手がつけられなくなる。
それに今までは風紀委員委員の方々になんとか見逃してもらってきてたけど、そろそろ本当に危ない。

そんなあたしの焦りと心配をよそに平助は今だ幸せそうに夢の中。
遂にあたしの広い心もプチリとキレた。


「起きろっつってんでしょ!!!!!」


布団を無理矢理剥ぎ取って、大声を浴びせる。ようやく飛び起きた様子の平助。


「うわっ!!…あ、凜……おはよう」

「おはよう。何回起こしたと思ってんの?
さっさと用意して、今日こそ本当に遅刻だよ!?」

「げ…っ、うそ、マジ!?やばい!!!」

「あ、今日千鶴家の用事で休みだから」

「あー、わかったー」

「早くしてよー……って…」


あろうことか、あたしがまだ部屋にいるというのに服を脱ぎだした平助。少年らしい内面とは裏腹に鍛えられた身体がさらされる。あわてて部屋から飛びだすあたし。


「…っ、下で待ってるから!!」

「おー」


毎朝の事とはいえ、慣れずに早鐘を打つ心臓を抱えながら、階段を駆け降りた。





しばらくして下りてきた平助と共にこれまた日課の全力疾走。


「凜、今何時!?」

「8時23分!リミットまであと6分25秒」

「やっばい…!!急ぐぞ!!」


パンをくわえた平助が、あたしの手をぎゅっと掴んで引っ張る。
危機的状況なのにどきっとしてしまうが、今は走ることに集中しなければ。でないと、平助のペースについていくのは大変だ。


「…ちょ、平助、痛い…」

「悪い!ちょい我慢して、」

「なにちゃっかり手なんて繋いでるの、平助」


聞き慣れた声に振り向くと、茶髪を風にそよがせて笑う人物が。


「沖田…!」

「おはよう、凜」

「今日は早いんだね」

「いつもより5分早く起きたからね。おかげでこうやって、凜にベタベタしてるだれかさんを見つけられたわけだけど」


切れ長の目を細めて、沖田はあたし達と一緒になって校門を目指す。


この沖田総司、あたしや平助と同じクラスで2年生なのだが、同い年なんて信じられないくらい大人っぽいうえにかなり甘いマスクの持ち主である。

申し分ないルックスに着崩した制服。歳相応か、それより少しやんちゃな平助と並ぶと余計に大人っぽく見える。


「凜に必要以上に触るようなら、例えクラスメイトだろうと、殺すよ?」


にこにこ笑ったまま、平助の手首を握る沖田。メキメキと悲鳴を上げる平助の手首。握るというか、もはや握り潰そうとしている。

……もうひとつこいつについて重大なことを付け加えておくと、――いわゆる腹黒なのである。たまーに彼が子供っぽく見えるのは、こういう独占欲(?)を見せられた時である。


「っでェェエ!!折れる、折れるよ総司!!」

「ふうん、これでも握った手離さないなんて、結構やるね、平助」

「ちょ、マジ逆パカするから!!助けて凜!」

「ごめん、あたしにはどうにもできないよ」

「軽い!軽いよ凜!!」


そんなこんなで全力疾走した先に見えた学園の校門。そこには待ち構えたように立つ二人の人影が。
息をきらせてなだれ込んだあたしたち3人の前に立ちふさがる。


「……っ、セーフ?」

「残念、アウトだよ」


そう言ってにっこりと笑うのは黒髪の少年。隣の2年G組の風紀委員、南雲薫。


「えー、今のセーフだろ!!見ろよ、今チャイム鳴ってるじゃんか!!」

「残念だけど、3秒遅れで遅刻。減点しとくからね」

「3秒!?んな厳しいのかよ!?見逃してくれたっていいじゃん、それくらい」

「遅刻は遅刻だろう?君は初めてかもしれないけど、沖田に至っては……もう何度目かなあ?いちいち数えてられないよ」


食ってかかる平助をものともせず、くすくすと笑う薫。そんな彼を、沖田が鋭く睨みつけた。どうやらこの二人、犬猿の仲らしい。

なんにせよ、あたしも遅刻になってしまうことは明白。遂にやっちゃったよ、初遅刻。無遅刻無欠席で今まできたのに。

思わずしゅんとしていると、


「やあ、凜じゃないか。こいつらに付き合って遅刻したんだろう?」

「薫…」

「今日は千鶴は休みか。…可愛い妹の親友に、そんな顔はさせられないな」


黒い瞳があたしを映して、細められる。
この薫は、あたしの親友、雪村千鶴の双子の兄である。
ただ、苗字からも分かるとおり今は親戚の南雲家に住んでいる。聞いた話によると、千鶴と薫が生まれてすぐ薫だけ南雲家に引き取られたとか。詳しい事情はあたしもよく知らない。

そして、薫は可愛い可愛いあたしの千鶴とおんなじ顔してるのに超黒い子である。


「お前だけは許してやっていいよ」

「え、本当?」

「ああ、大事な妹の親友だからね。……でもそのかわり、」


形の良い唇が不気味に笑みの形をつくる。


「俺のいうことを聞いてくれたらね」


―――怖…っ!!


もちろん速攻で遠慮しました。
どうしてこうもあたしのまわりにはこんな変な人が多いんだろう。


「朝から大変そうだな、東城」

「斎藤くん…!」


斎藤一。2年生の風紀委員で、私達と同じクラス。遅刻常習犯の沖田とは真逆で、規律に厳しくしっかりした人。

深い藍色の髪と同色の瞳がじっとあたしを見つめる。整った顔がこちらを向いてくれただけであたしはもう幸せだ。


「遅刻…、初めてなんだ。せっかく今まで無遅刻無欠席できたのに。ってことで斎藤くん、遅刻…失点取り消して!」

「ずいぶん強気だな……今回だけだぞ」


次から気をつけろ、と頭をぽんぽん撫でられて、顔が一気に熱を持つ。

と、パシャッと頭上で音が。


「はい、緩み顔戴き」


顔を上げるとにやにや笑って携帯のカメラを構えた沖田が。


「凜、顔緩んでるよ。一くんにデレデレしすぎ」


黒い笑みを讃えた沖田はそう言ってあたしの腕をつかんで引き寄せる。

斎藤くんはそれを見てむっと顔を歪めた。

――顔、緩んでたのかな?
だとしたら恥ずかしい。

沖田の腕の中で急にしおらしくなったあたしを見て、こんどは沖田がむっとした。



冷戦状態に陥った沖田と斎藤くん。どうにもできずに沖田の腕のなかから今だ動けずにいるあたしに気づき、


「ほら、もう教室行こうぜ、土方先生が鬼になっちまう」


助け舟を出してくれた平助に甘えて、なんとかこの場を抜け出し、教室へと走った。




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