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17.買い物は計画的に


※シーブリーズネタです。ご存知ない方はお近くの化粧品売り場やドラッグストアへお尋ねください。





「……やっぱり化粧品売り場じゃ高いなあ…SPF高すぎも駄目だし…かといって20じゃ低いよね…」


駅のショッピング街を暇つぶしにうろついていると、見慣れた後ろ姿を見つけた。
見慣れたというか、いつも見ているから嫌でも目に入る。

制服姿の彼女はぶつぶつ何かを呟きながら化粧品コーナーの棚で日焼け止めとにらめっこしている。

ふわふわ浮き立つ心にむず痒さを感じながら同じく制服姿のままの俺は凜の肩を叩いた。


「よ、凜」

「あ、平助!昨日はパーカーありがとね」

「気にすんなってあれくらい。買い物か?」

「うん、運動会前だから。平助は?」

「俺は暇つぶしー」


学校でよく会っても、もっと一緒にいたいなんて女みたいだなんて思うけど、やっぱり偶然でもこうやって会えたのは嬉しい。


「まだ6月なのにもう日焼け止めか?」

「うん。もう夏だからね。運動会って一日中外だからさ」

「へえ、…って…日焼け止めってこんなに種類あんのか」

「ここはまだ少ないほうだよ。値段も高いし。ドラッグストアとかのほうが安いしもっとたくさん種類あるよ」

「他に買うものはあるのか?」

「うん。シーブリーズと、シャーペンの芯と、左之兄に頼まれたサングラスと……」

「買うもの多くね?」

「あはは、夏だからね!ちょっとくらい弾けてもいいの!」

「まだ6月だぜ?」

「初夏でしょ、もう夏だよ夏!」


楽しそうに笑う凜の笑顔はまぶしくて、俺もなんだか夏が待ち遠しくなった。


「ほら凜、行こうぜ!」

「え?行こうぜって…」

「行かねーの?ドラッグストア」

「…行く!」


俺は凜の隣で彼女のペースに合わせて歩いた。いつもより少しゆっくりとした歩調が、嬉しかった。



駅近くのドラッグストアにて。


「ここならシーブリーズも安いね。先に日焼け止めコーナー行っていい?」

「いいぜー。女はいろいろ入り用で大変だなー」

「うん。だって焼けたらやだし。将来おばさんになってから全部回ってくるんだって。おばさんになっても、肌は綺麗なほうがいいでしょ?」

「俺は、どんなおばさんでも凜ならいいけど。それに、きっときれいなおばさんになると思う」

「…ありがと。平助はお世辞上手いね」

「お世辞じゃねえって!」

「じゃあ素直なのかな。あたし平助のそういうとこ好きだよ」


凜は明るく笑ってたくさんの種類が並ぶ日焼け止めのうちの一つを手にとる。


うわ。なんだこれ。

顔に熱が集まってきて、頬が熱い。


俺は赤くなった顔をごまかすように日焼け止めの棚を覗き込む。


「…な、なんかすげえな。俺、日焼け止めって海行く時に塗るもんだと思ってた」

「あはは、まあ、海は焼けるからねえ」

「俺、海行くと真っ黒になるうえに夜超ひりひりするんだよな。涙出るくらい」

「真っ黒って言えばさ、斎藤くんとか肌真っ白で綺麗だけど日焼けとかするのかな?」

「いや、一くんは赤くなる派だったぜ。去年海行ったときに…」

「え!?平助、斎藤くんと海行ったの!?」


凜の剣幕に俺は少し腰が引けた。


「あ、ああ。夏休み、合宿の打ち上げを兼ねてな。剣道部の合宿、毎年山にある寺でやるんだぜ」

「うわー…なんかいいね」

「凜もマネージャーだから、今年はもちろん参加だな!」

「そっか。そうだよね」


返事をした凜は上の空だ。どうせ一くんの水着姿でも想像してるんだろう。変態の男じゃあるまいし。能天気な彼女に呆れると同時に、一くんに少し嫉妬。

そんなことを思っていたら、凜はシーブリーズのカラフルなケースが並ぶ棚に移動していた。


「去年はせっけんの香りだったんだよね。平助は去年シーブリーズ使ってた?」

「おう。この黄緑のやつ」

「シトラスかー。なんか平助っぽいね」

「俺も買うかなー。ここ安いし」

「今年新しく出たのもあるみたいだよ。種類増えて迷う……今年もせっけんかな…。でもせっかくだし新しいのも気になるよね」


凜はオレンジ色のボトルと青色のボトルを手にとってしきりに悩んでいた。

悩むその姿がなんだかかわいくて、柄にもなく胸のあたりがきゅんとした。

そして同時に思いついた名案。

ほんの少しの期待と不安を胸に口に出す。


「…なあ、凜。俺と一緒にその新しいの買ってみないか?」

「新しいのって、この青のほう?」

「ああ。アクアの匂いなら男でもつけられるし、せっけんの匂いにも近いだろ。…ほら、俺も気になるし、それ」


新しいから気になる、というのはただの口実。俺は、凜と…好きな奴と同じ香りを身につけたかったんだ。

凜は俺と青いアクアの香りのシーブリーズを交互に見た後、


「うん、いいよ。一緒に買おうか」


にっこり笑った。

俺は、心の中でしっかりガッツポーズ。
男と同じ香りなんて嫌がられたらと少し不安だったけど、そんな不安が吹き飛んで、俺は一気に嬉しくなった。


「たしかに、ほかの果物系のより甘すぎないし。爽やかで、平助に似合うと思うよ、この香り」


そう言ってまたいつもの明るい笑顔を見せる凜に、また頬があつくなるのを感じた。

こういう瞬間、俺は思う。

やっぱり俺、凜が好きだ。



会計を済ませて、ドラッグストアからそとに出ると、駅前の大通りは爽やかな初夏の風が吹いていた。

俺達は買ったばかりのシーブリーズを開けてみる。爽やかでいて、仄かに甘さの残る香りがする。初夏の明るさにぴったり寄り添うようで、なんだかこれからくる夏を近くに感じて心が浮き立つ。


「えへへ、なんか夏が楽しみになっちゃうね」

「そうだな!」


凜と過ごす、夏。厳しい合宿も、この香りを身につけて、凜と一緒ならきっと乗り越えられる。

浮き立つ心を感じながら、そう思った。





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あきゅろす。
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