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16.汚れたらクリーニングへ


「ああぁあぁああ!!?!?!」


朝から乙女らしからぬ嬌声をあげてしまったわけを説明しよう。

1時間目が終わり、よっしゃ次は体育ー運動会の練習頑張っちゃうぞ!とか意気込んでたら突然飛んできたペイントボールが見事あたしに命中、カーディガンが絵の具で真っ赤になりましたとさ。


「総司ィィイイ!!あんたかァア!!」


腹を抱えて爆笑している総司に怒鳴る。


「あはは、まさか当たるとは思ってなかったよ」

「や、ちょ、冗談抜きでどうしてくれんのコレ!!カーディガン指定なのに!!」

「大丈夫、水溶性のペイントボールだから」

「大丈夫の意味が全くわからないし!」


千鶴が濡れハンカチを当ててくれるが、被った範囲が広すぎて丸洗いしないと駄目みたいだ。唯一スカートは無事なものの、カーディガンは救いようがない。ある意味よかった、ブレザー着てなくて。


「せっかく中間も終わって体育で運動会の練習ハッスルブイブイビクトリーしようと思ってたのに。総司のせいでやる気減った」

「それは薄桜の運動会がテストと立て続けにあるせいだよね。僕のせいじゃないよ」

「いや、やる気減ったのは全面的にあんたのせいだから。今日ブレザー着てきてないのに。どうすんの、カーディガンなしで!!」

「大丈夫、体育ならそのまま一日ジャージで過ごせばいいんだよ」

「やだよそんなの!土方先生服装うるさいし!それに、斎藤くんに嫌がられ……ごにょごにょ…」

「…乙女な凜とか変」

「うっさい!この借りは必ず返してやるから!!」


ともあれ、体育は左之兄なのでバックレるわけにもいかず、あたしは千鶴と一緒に更衣室に向かった。






「凜、なんでそんな膨れっ面してるんだ?」

「聞いてよ左之兄!…じゃなかった左之先生!総司の野郎にカーディガンに絵の具つけられた」

「あー…災難だったな…」

「しかもなんの策略か知らないけどムカデ競争のメンバーのなかに総司いるんだけど」

「男女混合だからな、仕方ないんじゃないか」


2年生の学年種目、ムカデ競争。クラスを男女混合でいくつかの組に分けてリレー形式でクラスごとに競う。


「総司以外のメンバーは……斎藤、藤堂、雪村…なんか固まってないか、いつものメンバーが」

「平助が体育係だからかも。総司め、この借りはリレーで返してやる…!」

「はは、同じクラスで仲間割れしてどうすんだ。今日の競技はクラスリレーじゃなくて学年種目だぞ」
「げ、マジで!?」

「マジだ。ほら、始めるぞ。準備体操してこい」

「はーい。じゃね、左之先生!」


準備体操をして、ムカデのスタート地点に行くと、すでに千鶴達がいた。


「順番どうする?平助、決めてある?」

「いや、今ここで決めるー」

「じゃあ僕が先頭やるよ」

「総司が先頭やるとありえないペースで行きそうだからやだ」

「しかたねーな!じゃあ先頭は俺が!」

「平助は平助で暴走するでしょ」


結局相談の結果、斎藤くん、あたし、総司、千鶴、平助、以下略という結果に。
まあ、妥当だよね。


いざ、足を縄にくくりつけ、前の人の肩に手を……と思って、あたしの思考は停止した。


「東城、どうした」

「いっ、いや…!」


どうしたもなにも……あたしの前、斎藤くんじゃんかァア!!!


こ、この斎藤くんの神聖な肩にあたしの手なんて置いていいのか…!?


「…俺の肩になにかあるのか?」

「いや、違くて……っ」

「そうか?ならば、早くしろ」

「……は、はいっ、……し、失礼します…!」


そっと斎藤くんの少し高い肩に手を置くと、ほのかに伝わる体温。斎藤くんがジャージを来ていただけまだいい。じゃなきゃ、首筋とかうなじとか肩の線とかが……っ!?


「いだだだだ痛い何すんの総司!!」

「……」


総司が無言であたしの肩を掴んでいる。いや、掴むなんて生易しいものじゃなくて、


「ちょ、あたしの肩砕く気!?いだだだだ!!放して!!!!」

「じゃあ一くんの肩掴んでにやにやするの止めて」

「だってにやけるじゃん!!…痛い痛い痛いマジ砕ける!!」

「止める?」

「や、止める止める!止めるから力強くしないで!」


ようやく解放されてみれば、平助と千鶴に憐れみの視線を向けられた。

思えば、総司が後ろの時点であたしの命は崖っぷちなのだ。順番決める時に気づかなかったあたし馬鹿だ。


「平助くん、掛け声とかってどうするの?」

「普通に1、2、3、4でよくね?」

「あんまり普通だと他の組と被って抜かすとき分かんなくなるよ」

「他の組は担任の先生の名前叫んだりするみたいだけど……どう?凜ちゃん」

「却下」

「いいんじゃない。せーの、豊、玉、豊、玉で」

「土方先生に殺されたいの?総司」

「でも他のクラスにはわからないよ。被らないしいいじゃない」

「まあ、土、方、土、 方よりはマシだけど」

「土方先生を呼び捨てにするのは気が引ける。できれば他の案にしてほしいのだが」

「わ、私も呼び捨てはちょっと…先生だし」

「じゃあ何か案出してよ、一くん」


総司に指名された斎藤くんは少しの間悩んでいたが、口を開いた。


「…クラスを叫べばいいのでは」

「それって、せーの、2、F、2、Fってこと?」

「ああ」

「いいんじゃない。他と混ざらないし。豊玉ー、2、F、2、Fで」

「いい加減にしろ、総司」

「…斎藤くんが本気だよ総司」

「面白いと思ったのにな」


反省した様子がからっきしない総司に斎藤くんはため息をついた。ため息も麗しい…!


「おい、なんか他のクラス走り初めてね?」

「え、うそ…!!」

「一くん、せーの、だよ」

「お、俺が言うのか、総司」

「当たり前だよ。先頭でしょ」


斎藤くんがせーのとか超かわいい…!

にやけかけたところで総司が手に力を入れてきたので自重した。


「…相わかった。……い、いくぞ!せ、せーの!」









体育が終わり、休み時間。着替えて教室に戻ると凜が千鶴ちゃんと話していた。

だけど、問題なのはその格好。


「凜、なにその格好」

「あ、総司!へへ、平助がパーカー貸してくれたんだ。誰かさんに絵の具つけられたから」


凜は袖の余ったパーカーの腕をふった。

僕としては、凄く面白くない。


「ジャージでよかったのに。余計なことしてくれるよね、平助」

「へへん、ジャージよりマシだもんね!」

「…一くんに嫌がられるよ」

「斎藤くんには許可とったもーん。土方先生にも言っておいてくれるって」

「本当、一くんは凜に甘いよね」


平助のパーカーを着ている凜が嫌で、脱いでくれるようにわざわざ一くんの名前を出したのに、なんだかマイナスだ。


結局、僕の苛立ちは部活で平助をぼこぼこにするまでおさまらなかった。





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あきゅろす。
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