12.ファーストフード店で長居は禁物
駅前のファーストフード店にて。
赤くなった東城を見て俺は思ったのだ。
彼女が麗しいのはいつものことだが、なんというか……可愛い、と。
そんなことを思ううちに、俺自身も頬が熱くなるのを感じた。
「何二人して赤くなってるの。凜、シェイク買ってきてよ」
「…はあ!?なんであたしが……自分で行きなさいよ!」
「ついでに一くんのぶんも買ってきてあげればいいじゃない」
「よっしゃ、乗った!斎藤くん、何がいい?」
「…いいのか?」
「いいの!希望ないなら、総司と同じやつでいい?」
「なんだか至れり尽くせりだな…すまない」
「ううん!じゃ、行ってくるね。千鶴、ついてきてよ」
「うん。私も何か買おうかなあ…」
東城にお金を渡し、ばたぱたと駆けていった宮崎と雪村を見送った後、総司がぎろりと睨んできた。
「一くん、凜のことどう思ってるの」
「どう、とは…」
「そのまんまの意味だよ」
「何いきなり言い出してんだよ、総司!」
「ちょうどいいから平助にも聞くよ。凜のこと、どう思ってるか」
「どうって言われても……なあ」
「じゃあきき方を変える。凜のこと、好き?」
総司の問いに俺は悩んだ。宮崎はクラスメイトで友達で部員で…それぞれとしては確かに好きだ。…だが、他には…?
「俺は好きだぜ!凜のこと」
俺が黙りこむ間もなく、平助は平然と言った。
「もちろん友達としても好きだし、一人の女としてもずっと、凜が好きだ」
へへっ、と笑い、胸を張った平助は堂々としていて、そこにはいつも背の高さをからかわれて、犬のようにやんちゃな平助はいなかった。
「…へえ、意外。平助、凜のことが好きだったんだ。てっきり千鶴ちゃんかと思ってた」
総司は珍しく驚いた様子でそう言った。
俺も、驚いていないと言えば嘘になる。
てっきり平助は、東城を友達として見ていると思っていたから。だが、それは俺の勝手な思い込みで…。
平助が、東城を、好き……。
なんだかあまり現実味がない話のような気がして、俺は黙ってしまった。
「凜がもう少し俺のことみてくれるようになったら、俺凜に告白するんだ。いつか振り向かせるぜ!」
もともと性格からかもしれないが、堂々ととした平助の姿に、俺の心はどんどん重くなっていって何故か焦りも感じる。
「ねえ、一くんは凜のこと、どう?好き?嫌い?」
再び総司に問われて、俺はひやりとする。
「嫌い、など…」
「じゃあ、好き?友達として、じゃなくて、女の子として」
総司は翡翠色の瞳で俺を見た。まるで、この問いから逃がさないかのように。
誰を気にすることもなく、堂々と好きと言った平助。俺にとって、東城は……?
「…俺は、東城を……」
言いかけた時、
「お待たせ、斎藤くん。シェイク、チョコでよかった?」
シェイクを三つトレイに乗せた東城が笑っていた。
「おかえり、凜。ご苦労様」
「まったく。近いんだから自分で買ってきなよ、総司」
「とか言ってるけど、なんで3つも買ってきてるのさ。僕と一くんのぶんにしては1つ多くない?」
「こ、これは、その……買いに行ったらついでにというか…飲みたくなっちゃったっていうか…」
「やっぱりね。太るよ?」
「お、沖田さん、言い過ぎじゃ…!」
「黙れ総司ィィイ!!シェイク返せ!金払え!」
「残念、これもう僕のだから」
涼しい顔でシェイクを飲む総司に怒鳴り喚く東城。横で雪村が困った顔で東城を止めようとしている。
「はい、斎藤くん」
東城に差し出されたシェイクを受けとる。
「…ありがとう、東城」
「どういたしまして!」
彼女は、明るく笑った。
俺にとって東城はクラスメイトで友達で部員で、かけがえのない仲間だ。
だが、もしかしたらそれだけじゃないのかもしれない…。
俺にとって、東城は……?
吸い込んだシェイクは冷たくて、少しほろ苦い味だった。
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