11.ファーストフードの食べ過ぎに注意
「あ、斎藤くん!」
振り向くと、俺より背の低い彼女がにこにこと笑っていた。
「東城、何か用か」
「うん、あのね、今日放課後部活ないでしょ!だから、駅前に新しくできたマック行ってみない?」
忠犬よろしく、パタパタと尻尾を振るように楽しそうな東城。
俺が、東城と…?
「ああ、かまわないが」
「…ホントっ!?よかった!斎藤くんってあんまりマックとか行かなそうだから、ちょっと緊張しちゃった」
「そんなことはないが…」
「そうなの?じゃあ、放課後、駅前のマックに来て!」
東城はきらきらした笑顔を振り撒きながら廊下を走っていった。
風紀委員として注意するべきなのだろうが、そんなことはどうでもよくなっていた。
「あ、斎藤くん!こっちこっち!」
「へえ、まさか本当に一くんが来るとは思わなかったなあ」
「斎藤さん、こんにちは」
「一くん!早くこっち来て座れよー」
ファーストフード店に入ると、楽しげに笑う東城を囲むようにして、総司、平助、雪村が。
てっきり東城と二人きりだと思っていた俺は、少し落ち込むと同時に恥ずかしくなった。
「あはは、急にごめんね、斎藤くん。…総司がここの開店記念限定メニュー食べたいって言うから、斎藤くんもどうかと思って」
「そんなこと言って、凜も気になってたくせに」
「そ、そんなことないし!女の子はジャンクフードなんて進んで食べないんだから!ね!千鶴!」
「へー、千鶴ちゃんはともかく、凜って女の子だったんだ」
「シバくよ総司!!!」
二人用のテーブルを三つくっつけて、東城はソファーで総司と平助に挟まれている。
俺は雪村にすすめられるがまま、東城の斜め前に座った。
「斎藤くん、どれ食べる?無理矢理誘っちゃったし、好きなの食べていーよ!」
東城は自分のトレイにのっている三つのハンバーガーを差し出す。もし俺が来なかったら、東城がひとりでこれを食べるつもりだったのだろうか…。
「あっ、違うからね、これは総司に買わされたんだから!」
「凜がいつまでも悩んでるからでしょ。限定メニュー三種類、悩むなら全部買っちゃえばいいんだよ」
「だからって本人の許可なしに横から頼むことないでしょ!」
「大丈夫、店員さん喜んでポテト追加してくれたじゃない」
「それもお前が追加したんだろーがっ!!」
「あ、あの凜ちゃん、皆さんいるしもう少し静かにしたほうが…」
「千鶴ちゃん、凜に静かさを要求するのは無謀だよ」
「馬鹿総司!!シバくよ!!」
「できるもんならどうぞ」
「ムカつくー!!!」
楽しそうに話す東城と総司。この二人は本当に仲がいい。
なぜか胸のあたりに重く広がった、黒い感じに俺は戸惑った。
東城が俺を呼ぶ声にやっと我に返る。
「とりあえず斎藤くん、ひとりじゃ食べ切れないしこれどーぞ!」
「…あ、いや、さすがにそれは……」
「いいんじゃない、一くん。凜がせっかく言ってるんだし」
「総司が言うことじゃないけどね」
「余ったらもったいねーしな!俺ならむしろ進んでもらうぜ」
「ならば平助が貰えばいいのでは……」
「……もう!ぐずぐず言わない!」
「むぐ」
突然ポテトを口に押し込まれた。
びっくりして目を上げると、強気に笑った東城が白い指につまんだポテトを俺の口に入れている。
「男の子は遠慮せずに食べときゃいーの!」
押し込まれるがまま、噛むしかなくもぐもぐとポテトを食べると東城は嬉しそうに笑った。
「あ、ずりぃ一くん!凜、俺もあーん!」
「平助は自分のあるでしょ」
「凜ちゃん、あーん」
「はい、あーん」
「千鶴はいいのかよ!」
「ま、千鶴ちゃんは女の子だしね」
「あれ、総司もあーんしてほしいの?」
「東城…!」
なんとなく東城が総司にポテトを与えるのが嫌で、とっさに制止してしまった。
そんな俺を見て、総司が意味ありげににやにやと笑う。
東城は俺を見て大きな瞳を瞬いていたが、
「あ、斎藤くん、ひょっとしてもっと食べたくなった?いいよ、はい」
空いていたトレイにハンバーガー二つとポテトをのせて俺の前に置いた。
そういう意味ではなかったのだが…。
しかし、にこにこと笑う東城を見ているとなんだか断りにくい。
「…いいのか?」
「うん。どうせ食べきれないし」
「では、今度何かで礼をする」
「あはは、いいのにそんなの」
「…ありがとう、東城」
東城に礼を言うと、彼女はほんのり顔を染めた。
東城は正真正銘女子なのだが、普段はなんというか…何に対しても強気で、こんなふうに頬を染めたりする姿はあまり見ない。
…というか、俺は初めて見た。
外見に釣り合わず、仁王立ちが様になる彼女がふいに見せた女子らしい一面。
彼女につられてか、俺まで頬があつくなった。
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