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弐拾肆 正体


「来てくれてありがとう」

「いいえ、頼っていただけて嬉しいです」


日の出と共に広間に集まったのは幹部、雪村、舞希、そしていつぞやの少女とお付きの女性だった。


「あの…、お千ちゃんがどうして此処に…」

「この子は私よりもあいつらについて詳しいから。それじゃ、始めさせてもらう」


舞希の纏う空気ががらりと変わる。
それは話を始める合図だった。


「今回襲撃してきた奴らが人間じゃないってのは、もう気づいたと思う。あいつらは、言ってた通り鬼だ」

「「「……!!」」」

「鬼については私から説明します。日本には昔から鬼が住んでいて、今も人間に紛れて生活しています。風間達や私はその一部…、鬼です。私は名を、千姫と申します」


紅紫色の瞳は確かに高貴な雰囲気を醸しだしていた。


「風間千景は西の鬼を統一する風間家の統領。そして東の鬼を統一するのは、今は滅び去った雪村家」

「「「――!」」


雪村が目を見開く。
全員が驚いたが、舞希は静かに虚空を見つめていた。
雪村の身元を、舞希は知っていたのか。


「千鶴ちゃん、信じられないかもしれないけど…あなたは雪村家の生き残りなの。だから…」

「あ…」


雪村が驚きと困惑が混じった表情で声を漏らす。


「そして、鬼界を語る上で外せないのは、西と東、全国の鬼を統治していた――、宮崎家」

「「「――っ!?」」」


全員が、舞希を凝視した。

舞希は何も言わず、ただ色素の薄い瞳が虚空を捕えていた。


「宮崎家は十数年前に滅び、今は鬼は東西に分かれています。風間が千鶴ちゃんに近づいたのは、鬼の東西を再び統一するため…」


千姫が舞希を伺うと、舞希がすっと立ち上がった。威厳漂うその様子。
そして舞希は自身の髪紐に手をかけた。黒い碧みがかった艶やかな髪が散らばり落ちる。


「――私は宮崎家統領、宮崎舞希。雪村千鶴を護る為、異国より日の本に帰国いたしました」


深い笑みを振り撒いた舞希。
その声音は、たしかに舞希の《女》の声だった。鈴の音のようでいて、凛とした声。


「――靂…っ」

「宮崎……」


あまりの神々しさに、俺達は声を出すので精一杯だった。おろされた黒髪から、讃えられた笑みから、…彼女の全てから、溢れ出る女らしさ。それは俺達を毒するように甘く、美しい。


「ちーちゃん、今まで黙っていてごめんなさい。あなたも私も、正真正銘の鬼なの」

「……っ、姉様…」

「あなたを人間から護るには、あなたを人間として生かすことが最善だと思っていたの。だけど、まさか風間が動くなんて予想していなかったわ」


すっと雪村の髪に触れた舞希は慈しむような表情を見せた。


「…皮肉ね。やっとあなたの前で、姉に戻ることができた。風間のおかげ」

「姉様…っ、舞希姉様…!!」


雪村は、舞希が女であることを知っていたのか。雪村を抱く舞希の表情は、《姉》のものだった。軽く笑った舞希はまるで花が溢れるかのようで。


「私は千鶴を護るため、再び鬼の道を生きることを決めたわ。だから、千鶴を今後どうするか、新選組で決めて。私は千鶴に従う」


それを聞いた時、俺の中の何かが疼いた。

舞希が俺に永遠を誓えなかったのは、舞希が鬼であることに関係していたのではないか。


「だけど、その前に聞いて欲しいことがあるの。――これは、私自身について」


スッと淡い瞳を細めた舞希。その色素の薄い瞳には、濃い光がらんらんと宿っていた。


「千姫、君菊さん、千鶴に鬼について詳しく教えてあげてくれるかしら。私の部屋を使って構わないから」

「わかりました、舞希様」


千姫は頷くと、女性と雪村を連れて広間から出ていった。





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あきゅろす。
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