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第八講 よく分かったね


「あ、ビンゴ」


コンクリートの床に、腕を頭の後ろで組んで寝転がる人影。

「…宮崎か?」

人がわざわざ連れ戻しに来てやったのに、起き上がることもなく言った高杉に少しイラつく。


「そ。よく分かったね」

「どうせ連れ戻しに来たんだろ。銀八にそそのかされでもして」

「分かってんならホラ、さっさと教室戻るよ。あたしも授業出なきゃなんだから」

「よくここが分かったな」

「…人の話聞いてる?」


さわりとまっさらな屋上に風が吹いた。
セーラー服のスカートが翻る。


「…高杉なら、屋上だと思って」

「…ククッ…なんだその理由」

「いいの。勘だよ」

「変な女」

「うわ、ムカつくわ…せっかく迎えに来てやったのに。…ほら、さっさと立って」


ぐいと高杉の腕を引っ張る。
と、逆に腕を捕まれた。


「きゃっ!!!」


ぐん、と強い力で引かれ、思わずあげた悲鳴とドサッという派手な音が同時に聞こえたときには、あたしの上に高杉がいた。


「…な、に…すんの」

「…舞希」


名前を呼ばれてビクッとする。
腕にと背中に感じるコンクリートのざらついた堅さ。高杉の目は恐ろしいほど真剣だった。


「好きだ」

「…っ」


思わず息を飲んだ。
高杉はそのまま視線を動かさず、まっすぐにあたしを見ている。


「俺のモンになれよ。舞希」


耳元でそう言われて、身体がほてっていくのを感じた。

まるで押し倒されているかのような体勢。
というか完璧に押し倒されている。
校庭から、見えていないだろうか。


やわらかい感触が首筋に触れて驚く。
そのままセーラー服の襟を広げられる。
生暖かい高杉の舌が首筋を滑り、ちり、とした痛みが走った。


「…や、…っ!」


ガチャリ


あたしの声と重たい金属のドアが開いた音がほぼ同時だった。


「お〜い宮崎、高杉……っ!?」

「!!」


その姿を見て、凍りついた。あろうことか、入ってきたのは銀先生だった。先生の手からバサッとジャンプが落ちる。

「先生…っ」

銀先生は何も言わない。ただ、背筋がゾッとするような視線を高杉に向けていた。

(え…やだ……恐い…)

高杉はその視線を怯みもせず傲然と受け止め、ニタリと笑った。
あたしの上に乗ったまま。


「何、やってんだ…テメエ」

「先公には関係ねーだろ。好きな女押し倒して何が悪いんだ?」

「……」


高杉の口こそ笑ってはいるがそれが嘘であることは一目瞭然。
だって目が笑ってない。

「…っ、た、高杉…っ」

お願い、挑発しないで。そう無言で訴えると、


「…舞希」


あたしの願いを汲み取って、高杉は静かにあたしの上から退いた。

そのまま高杉に腕を捕まれて、無言のまま佇む銀先生の横を抜け、屋上を後にした。

それはまるで、先生から逃げるかのようで。


見下ろす天井は、綺麗な夏の青空だった。





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