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秋雨
第4話



「Ha〜、随分とNice guyになったじゃねーか、元親」
「うるせぇよ、政宗」



痛む体をおして講義に出た。
珍しく政宗が昼前から出て来ていて、ニヤニヤと気味の悪りぃ笑みを浮かべて見て来やがる。
俺の口元には小さい絆創膏が一つ。
昨日あの女が貼ったデカい絆創膏は小さいものに変わった。
傷が見えてしまうがデカい絆創膏は大学に通うには少し格好悪りぃ。



「鬼の旦那、どうしちゃったのさ?」
「元親殿が喧嘩で負けるなど珍しいでござるな」
「少しはマシな顔になったのではないか」



佐助と真田、それに毛利。
こいつらの言う通り、俺が負ける事自体が珍しい。
まあ、油断しちまった俺も俺だが……にしても胸くそ悪りぃ。
一人相手にあの大人数とはな。
負ける気はしなかったが、やはり人数の差というか何と言うか……



(…くそっ!!ぜってぇ落とし前は付けてやる)



「あの、元親くん」



ダラダラ喋った後で解散し、購買でメシでも食って帰るかと思っていたところに女から声を掛けられた。
声を掛けられる事自体別に珍しくもないから話を聞いてると、どうも俺に気があるらしい。
別に美人でも不細工でもない派手な女。
イライラしていたのもあり、その女とすぐにホテルへ直行。
やりたいだけやって、それでもイライラが収まらずに帰り道でぶつかって来た野郎に喧嘩を吹っ掛けた。



「あー…、空が青ぇな」



河川敷で適当にゴロリと横になって空を見る。
今日の空は雲はあるがスッキリしていて心地良い。
時折トンボやら鳥やらが視界を横切って、それを捕まえようと手を伸ばしてみるが当然届かない。
その腕にチラリと見える昨日のデカい絆創膏。



(ほんと、下手くそだな)



あの後、結局晩飯は食わずに歩いて帰った。
普段はバイクで動いてる事もあってか家まではかなりの時間を要した。
腹の傷も青アザになってるぐらいで別段いつもと変わらない。
こんな事いつまで続けても仕方がないとは分かってはいる。



「あー、くそっ!!」
「頭でも可笑しくなったか、西海の鬼」



吐き出した独り言に対し、突然見覚えのある隻眼が覗いてこの一言。
俺と反対の目を隠した若い竜だ。



「Green tea or Vanilla?」
「バニラ」



カップに入ったいわゆるお高めのアイスを渡された。
こいつはちぃっと変わり者で、俺とは最初喧嘩の相手だった。
喧嘩で初めてボコボコにされた相手だった。
そんなこいつが今じゃ一番のツレになっちまってる。



「誰にやられた?」
「……元仲間だ」



二人並んで煙草を吹かす。
その苦味とバニラの甘味のミスマッチさに思わず笑っちまう。

政宗と俺は似ているところがある。
この隻眼もそうだが、何となく同じ匂いを感じるところは多い。
だが、俺と違って女は大事にする。
たった一人の女をずっと一途に愛し続けてる。
相手に優しく出来るから仲間からも慕われるし裏切られない。
そこが俺と違う。
ま、あえて口には出さねぇけどな。
言ったら言ったで、「Ha!俺を誰だと思ってやがる」とか言うだろうし。
政宗の口から吐き出される煙が空へと消えた。
もうすぐ夜が来る。



「Ah〜、そういえば見た事ねぇ馬鹿面がお前を探してたぜ」
「……またか」



俺の名を嗅ぎ付けてか、昔の報復か知らねぇが、喧嘩を吹っ掛けられる事はよくある話。
俺もそこそこ名を挙げていたし、一方的にやられるなんて事はなかった。
そんでもって、俺はそれから脱却したいとどこかで思ってる。
もうガキじゃねーんだ。
だが、どこかでそれを埋められるだけの高揚が欲しいのも事実。
だから喧嘩もするし、女も抱く。



「じゃ、ちょっくら行って来るわ」



片手を挙げて政宗に礼を言う。
政宗は家業を継いでから、ほとんど手を挙げなくなった。
あいつの家は代々続く超一流の家で、あらゆる業界に精通するほどの権力と財力、そして名を持っている。
ちょっとやそっとの覚悟じゃ到底務まらねぇだろう。
それを背負う事を決めたあいつの左目に、今の俺は一体どう映ってんだろうな……



<To be continued…>

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あきゅろす。
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