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親指筆頭
過去



いつも一人で待っていた。

車の音がすると急いで玄関に向かう。
最初に玄関の扉を開けるのはいつも母親。
次に父、最後は少し離れて兄だった。

兄は有名な国立大学を受験する為、ほぼ毎日母に送られ塾へ行っていた。
その間、私は一人待っている。
父は駅で母達と合流し、一緒に帰って来る。
どこにでもある普通の家庭だと思っていた。



「お前なんて大っ嫌いだ!」



兄は私を嫌っていた。
それが本気の嫌悪だと知ったのは、私が中学に上がる頃だった。
私と兄の年齢差は12歳。
つまり、一回り違うのだ。

母は女の子が欲しくて、私が生まれた時は本当に喜んでいたという。
可愛がってくれた。
そのせいで、思春期だった兄に変化があったらしい。
私は別に兄と必要以上に距離を縮めようとは思わない。
だけど、勘違いしている兄にはきちんと知って欲しかった。



(お母さん、兄さんの事すごく誇りに思ってんだよ)



***



ふと蘇る記憶に目が覚めた。

じんわりと嫌な汗、早い鼓動。
今になってこんな夢を見るのは、あの時以来の同居人がいるからかもしれない。
私のベッドの横、サイドテーブルが彼の寝床である。
最初は嫌がっていたネコベッドにも愛着が沸いた様子。
その上で昼寝をしているところも見た事がある。

水を飲みにキッチンへ向かう。

今でこそ兄とは気軽に話をするが、あの頃は正直己の存在に不安があった。
自分がいるから兄はあんなに追い詰められていたのだと。
自分が生まれて来たから、兄は私を嫌悪するようになったのだと。



――お前なんか嫌いだ



脳内でリピートされる声は消えない。
このまま私は、あの記憶に苦しめられながら生きていくのだ。
ずっと、この先も……



(私は役に立ってるよね……政宗)



小さな寝息を立てるそれを見て、私はまた夢へと沈んでゆく。



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