親指筆頭
外はとっても刺激的
意外に寝心地が良かった。
まん丸のフワフワした入れ物の中に寝かされ、雪兎と喋りながらいつの間にか寝ていたようだ。
見れば、ソファとやらの上に雪兎が横になっている。
突然頭上から降って沸いた俺を、特に毛嫌いするわけでもなく受け入れた女。
肝が据わってるっつーか、馬鹿っつーか。
それでも嬉しかったんだぜ、俺は。
メイクボックスには鏡が付いている。
それを起こして姿を映してみる事にした。
確かに小さい、そして二頭身……
(何でだよ)
別に嫌じゃねーけど、可笑しいだろう!
この俺が二頭身って。
「……そー言えば、アイツ。買い物に行くとか言ってなかったか?」
携帯を見れば、時刻は……
分かんねぇ……
昨日、雪兎が時間を見るのにコレを触っていたから真似てみたのだが、どうやら俺の知っている時間表記とはまた違うらしい。
たぶんこれは異国の表記だ。
しかも俺の知らない異国の。
雪兎は雪兎で異国語を理解しているし、回りも話していた。
そういう時代なのかもしれない。
昨日、雪兎と出会ったあの神社からは「電車」という乗り物で帰った。
ものすごいSpeedで走るソレ、夜だというのに明るい街並み。
雪兎のいう<現代>とはこういうものなのだろうか。
(ま、とりあえず起こしてやるか)
「Hey、雪兎!」
反応なし。
熟睡かァ?
「Wake Up!起きろ、雪兎!」
駄目だ。
全く起きねぇ。
ってか、声はちゃんと届いてんのか?
テーブルの下を見る。
そんなに高くはない。
飛び降り、雪兎の布団をつたってよじ登る。
(フーン、寝顔は案外カワイイじゃねーか)
「起きやがれ、雪兎!」
「ん゛――」
オイオイ、ったく……ガキだな、こりゃ。
仕方ねぇ。
耳元で叫ぶか。
(ん?)
耳に何か付いてる。
キラキラと光る……石、か?
それに触れていると雪兎が気付いた。
「Good-morning」
「……政宗」
「アン?どうしたよ、そんな顔して」
「ううん。おはよ。今何してたの?」
耳のやつを聞けば「ピアス」だと教えてくれた。
耳に穴を開けて付けるAccessoryだとよ。
親から貰った体に、穴なんか開けてんじゃねー。
とは思っても、俺も同じようなもんだ。
病とはいえ、俺は親から貰ったこの体の一部を、瞳を失った。
自ら小十郎に目を抉り出すよう命じた。
(ったく……余計な事を思い出しちまった)
「今日はDate?」
「そうだったね」
雪兎が化粧しているのを見ていて関心した。
まつげがすごく上がる。
マスカラ……とかいうやつを塗れば、黒く長くなって、目がでかくなった。
いや、錯覚だが意外に変わるもんだ。
で、雪兎のバッグに入って出掛けたのだが、人が多い。
肌の露出が多い女、髪が上杉の忍みてーな色の男。
「政宗、これカワイくない?」
連れられた先は人形の服が並んでる店だった。
何かちょっと変わった店で、太って汗掻きまくりの男とか、頭に布を巻いた男とかが、雪兎を舐めるように見る……
それなのに雪兎は全く気にする様子もなく、
「これがカワイー」だの「こっちも素敵」だの一人はしゃいでいる。
浮いてんぞ、お前……
そうこうしている間にも雪兎は視線を集める一方で……
(やめろっ!雪兎をそんな厭らしい目で見んじゃねーよ!!)
「政宗?」
「っ!あ、ああ…悪りぃ」
「やっぱ政宗は着物だよね〜」
楽しそうに小声で言う雪兎より、俺は周りの奴らが気になってしゃーねぇ。
お前、自分がオオカミの群れに投げ込まれてるようなもんだと気付けよ!!
店を出た後、聞けば、
「あのお店はね、趣味を極めた人が行く特別なお店なのよ」
だから少し変わった人が多いのだと。
楽しそうに話してくれた。
ったく、ハラハラしたぜ……
だが……
(何でお前がそんな店知ってんだァ?)
とは聞けねーまま、刺激的な外出は続いた。
雪兎はオモチャ屋というところで俺が使えそうな小物を買い、更に出店で何やら丸い食べ物を買って公園に連れてくれた。
「これ、たこ焼きっていうのよ。美味しんだから〜」
丸いそれは俺の頭ほどある。
雪兎がそれを斬り分けてくれ、口に含む。
「うまいな」
柔らかくてダシが染み込んでる。
中にはタコが入っているらしく、なるほど、それでタコ焼きか。
(小十郎にも食わせてやりてぇな)
そこでふっと考える。
今まで正直忘れていたが、小十郎は、兵達は、奥州はどうなっているのだろうか。
俺がここにいるという事は、俺の元いた世界に俺はいないという事。
それが他国に露見するような事はあっちゃならねぇ。
俺が不在だと知れれば、他国は必ず攻め入って来る。
とにかく、その辺は小十郎が何とかしているはずだ。
(問題はその後だな……)
いつまでも言い訳が通じるはずもない。
伊達三傑が揃っていたとしても簡単に理由がつくもんでもねぇからな。
(Shit!どうする……)
「政宗?」
「……あ?何だ?」
「顔、すごく怖いよ。奥州の事、考えてた?」
今、俺の考えてる事を伝えたらどうするのだろうか。
こいつにただ、気を遣わせるだけじゃねーのか?
だが……
雪兎、すまねぇ。
俺はやっぱり自分の国が大事だ。
俺は、奥州を守らねぇといけねんだ。
「政宗」
「What?」
「大丈夫だよ。ちゃんと帰れるから」
「雪兎……」
まさか、そんな言葉を掛けてくれるなんて思ってもみなかった。
「どうにかして帰れる方法、私も探してみるから」
そんなに気負い込まなくていんだよ……と。
雪兎も雪兎で、大変なんだ。
俺ばかり気にしてても仕方ねーかもしれねぇ。
(とにかく、元の世界に帰る方法を……)
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