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親指筆頭
現実か、幻想か



「Hey!」



お風呂から上がって梅酒サワーをぐびっといっていたところで呼ばれた。
リビングのテーブルの上、小さくて近付かないと何をしているのか分からない。



「何?」
「どーいう事だァ?こりゃ」



ビシっと指差す先にはベッド……というより、アレです。
ネコちゃんが寝る時に使う、丸いフカフカの。



「カワイーでしょ!義姉さんに貰ったの〜(ペットいないけど)」



私には歳の離れた兄が一人いて、その奥さんと私は非常に仲がイイ。
兄が結婚した時、まだ高校生だった私。
一緒に住もうと言われたが、新婚家庭に同居出来る程、私はしおらしい女ではない。
だから、両親の援助を受けて一人暮らしを始めた。
私の親は海外に住んでいる、ちょっとリッチな奴らだ。

話はズレたけれど、その仲良しの義姉がペットを飼うのなら……とくれたのがコレなのだ。
けど、どうせ猫を飼う事もないのだから、政宗に使って貰った方がいいと思って出していたのだが……
どうやら筆頭のお気には召さなかったよう。



「貰ったの〜!じゃねーよ!俺は畳に布団がいんだ」
(そっちかよ!)
「残念ながら私の部屋はフローリングなの。畳はないの!」
「Shit…やってらんねぇ」



とか言いつつ、小さなベッドに潜り込んで行く姿はやっぱり可愛い。
そんな政宗の布団はハンドタオル。
それを眺めていたくて、頬杖を着いていると……



「雪兎は寝ないのか?」



向こうも見て来る、というか見上げて来る。
小さくても男なんだ。
ニヒルな笑いや、ふとした仕草がそれを物語っている。



「一杯やってから寝るよ。あ、ごめん。コレ眩しいよね?」
「No problem」



実は俺もあまり眠気がな、と言う政宗が可愛くて、またほっぺを突いてやる。
政宗は自分の状況とか、これからの事とか考えているのだろうか。
正直、問い掛けられたところで私には何の解決の糸口も見えてはいない。
それでも、政宗を元の姿に、元の世界に返してあげたいとは思う。



(出来る事はやってみるからね、政宗)



私が、ちゃんと元の世界に返してあげるからね。
それまで、ここにいていいからね。
チラっと振り向いた政宗と目が合って、何だか嬉しかった。



「この世界は明るいな」


夜なのに昼間みてぇだ、と政宗が言う。
時代が違う。
馬で駆け回っている時代より遥かに文明は発達しているし、物の流通も進んでいる。



「きっと、政宗にとっては刺激があっていいのかもね」



伊達政宗という人物が実在した事、けれど、奥州筆頭であるこの伊達政宗とは一味違うという事は簡単に説明した。
傍にはいつも、竜の右目 片倉小十郎が控えているという事も。
一通り聞き終えた政宗は、信じるでもなく、信じないわけでもなく、ただ黙って目を閉じていた。



「今日は色んな事があったね、政宗」
「そうだな」
「もう寝なよ。私、そこで寝るから、眠れなかったりしたら呼んでいいからね」



今日はこのままソファで眠ろうと思っていた。
正直まだこの状況が現実とは思えないところもあり、明日目覚めてここに政宗がいなければ、単なる私の妄想に過ぎなかったのだ……と、ちゃんと理解する事が出来るだろう。

全ては明日分かる。



「政宗。明日は服とか買いに行こうね!」
「ああ」



時刻は午前1時半。
残りの酒を流し込み、いつものベッドから掛け布団だけを持って戻る。
気付けば小さな政宗から寝息が聞こえて来ていた。
知らない世界、知らない人間、今日はきっと疲れている。



(明日もいるといいな……)



そう自然と思ってしまう自分に苦笑しつつ、私も夢へと誘われる事にする。



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