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親指筆頭
はじめまして、筆頭



とある神社。

街中にぽつんと佇むこの神社には、意外にも訪れる人は多い。
最近は若い女の人も多く、ちょっとしたスポットになっていたりする。
理由は一つ。
ここが、真田幸村終焉の地だからだ。

別にその人物に特別な思い入れがあるわけでもなかったが、
BASARAの幸村は好きなので、ただ何となく寄ってみようと思っただけだった。

金曜日。
仕事の帰り。
時刻は午後8時前。

昼間に人がいても、そんな時間に寄ってみようなどと思う人はいない。
ましてや女一人。
神社に入ると大きな木々がそびえていて、暗がりの中でそれが、異様に囲んで来るように見えた。



(やっぱ、夜って不気味だな……)



境内の右に鎮座している幸村像が、更に不気味さを醸し出している。
BASARAの幸村とは全く違う。
当たり前だが。

――お館様ぁぁぁぁああーー!!

と叫ぶ彼を思い浮かべながら賽銭箱の前に立ち、屋根辺りからぶら下がっているソレをカラン、カラン……と鳴らす。



(って、何も願い事なんてないしな)



手を合わせて思った。
無欲なのか、ただの凡人か、私は何も思い付かない自分に苦笑する。
それでも何か言っておかないと、せっかく来たのだから……
と思う辺りが社会の荒波に揉まれている風を表している。
じゃあ……



「子猫が欲しいです!」



可愛くて、それでいて仕事から戻った私を一瞬で癒してくれるような。
なんてね♪
マンションはペット禁制だ。
もし譲ってくれる人がいたとしても飼える事はない。
だから願ってみたくなる、天の邪鬼な私。
じゃあ、もう1回……と再びカランカランとした時だった。

突然、頭の上に何かが降って来た。



「あだっ!」
「いてっ!」



柔らかい感触だったような気がしたが、結構響いている。
ジンジンする頭頂部を摩りながら周りを見渡す。



(確かに誰かの声で、いてっ!って聞こえたんだけど……)



辺りに人の気配なし。
もちろん、頭上にも。



(マジ……?)



思わずゾッとした。
しかし!



「Hey、怪我はねーか?」



声が聞こえた。
しかも、どっかで聞いた事のあるような声と口調。



「Hey、Girl?聞こえてっか?」



声は賽銭箱の上から。
ゆっくりとそこへ視線を向けると、賽銭箱の上で何かが動いていた。



「悪りぃが、助けてくれるか?」



今にも硬貨と一緒に吸い込まれていきそうな、そんな状況。
隙間で一生懸命耐えている、そんな状態。
さっき降って来たのはコイツか。
バウンドしてここに落ち着いたようだ。
服と思しき部分を親指と人差し指で摘んで持ち上げる。



(軽い)



意外と冷静な自分に驚いた。
窮地に立った時ほど、人間は冷静でいられるものだと聞くが、本当かもしれない。
被っていたハットを脱いでその中へ入れた。

弦月の前立てに隻眼。
見た事ある、その風貌。
腰に6本刺さっているソレ。



「何でだろう……、伊達政宗がいる」



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あきゅろす。
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