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親指筆頭
大切な存在



天井は白。家ではない。
ならばここは何処だろう……
痛む体を起こして気付く。
ここは病院だと。



(私は一体……)



首を動かすと頭部に鈍い痛み。
これはあの時の再現か。
いや違う……私は乗り越えたはずだ。
恐怖も絶望も、何もかも。



「気分はどうだ?」



突然部屋に明かりが灯った。
扉のところには燐がいて、ブラブラと私の携帯を揺らしている。



「燐……」
「どうした?」
「ごめんね」
「全くだな。ってかいい年して何で飛び出すかな、あんたって子は」
「そっか、車に……」



どうして車に轢かれたのだろう。
どうして私は飛び出したりしたのだろう。
公園を歩いて、話をして、そして銀色の髪の……



「燐っ、政宗は!?」



燐が扉の向こうを指差す。
どうして政宗はここにいないのだろう。
ゆっくりと扉が開かれ、そこには政宗が立っていた。
髪の毛を濡らし、服までびしょ濡れで。
そして、その姿は普通の男の人の姿だった。



「元に戻ったの?」
「ああ」
「良かったね」
「だが、この姿もそう長くはねぇ」



政宗が私の目を見ない。
ぽたり、ぽたり、と滴る雫が床を濡らしていた。



「政宗、怪我してるの?」
「大丈夫だ」
「そっか。ちゃんと守れたんだ」
「……んで」
「え?」
「何であんな事しやがった」



静かに、けれども怒りを含んだ声だった。
政宗が私を叱っている。
いつも叱るのは私で、土足でテーブルに上がらないとか、食べる時には手を洗うとか、そんな事を言っていたのに。



「私たちは一旦帰る。雪兎の着替えも取りに行きたいしな。先生と少し話をして来るから、その間にしっかり叱っておけよ、雪兎」



鍵を燐に渡した。
私は1週間ここに入院だそうで、付き添い人の泊まりは不可なため政宗は燐が引き受けてくれた。



「政宗、とりあえず座って」



椅子を勧めれば、出て行く燐とすれ違うようにこっちに来た政宗。
まだ私の顔は見ないし、俯いたまま。
でも怪我がなくて良かった。

あの時は必死で、とにかく政宗を守りたくて飛び出していた。
親からも「左右確認して」とかって小さい頃から言われてたのに、体が勝手に政宗を追っていた。
小さい体を掴んで抱き込み、それから体が宙を行く感覚。
走馬灯のように……なんて聞くが、あれは本当だった。
痛いとか怖いとか、死ぬかもしれないとかそんな事は頭になくて、ただ意識が薄れていった事だけはハッキリと覚えている。



「どうして怒ってるの?政宗」
「テメェがこんな怪我しやがるからだ」
「私、政宗が無事だったからそれでいんだけど」
「俺は良くねぇっ!」



政宗と目が合った。
その表情が今まで見た事ないくらい切なげで、悲しそうで、泣いてないのに泣いているみたいで。
思わず私が泣いてしまった。



「Sorry!泣かせるつもりはねぇんだ」
「違う。何か政宗が泣きそうだったから、つい……」
「Ha?」



手が伸びて来て政宗が私を引き寄せた。
しっかり感じる政宗の体温、鼓動、香り。
今、私の目の前にいるのは、いつもの伊達政宗だ。
良かった。
怪我がなくて本当に良かった。



「雪兎……」
「ん?」
「二度とあんたをこんな目には遭わせねぇ」



そう言って政宗が優しく抱き締めてくれて、すごく安心したのを覚えてる。
痛いくらいに抱き締められているのに、すごく優しい腕だった。
だからホッとしてそのまま……



「寝ちまったのかよ」



政宗が呟いた事など知らなかった。



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