親指筆頭 傷を負う 痛々しいにも程がある。 頭部には包帯が巻かれ血が滲み、鼻から変なTubeみたいなもんが生えている。 腕にも包帯、針が刺さっていて、その先には透明な液体が滴る容器。 ピッ…ピッ…、とうるさい機械達。 「命に別状はない。出血は多かったが頭の怪我も大した事はないそうだ」 燐がそう教えてくれた。 ベッドで眠る雪兎の傍、命に別状ないと聞いて安堵した。 目を閉じれば、あの光景。 雪兎が俺をかばって怪我をしたあの瞬間が蘇る。 *** 二人で散歩がてらにフラフラと緑地公園を歩いた。 もちろん俺は雪兎の胸ポケットに入ったままで。 星が綺麗で風も心地良くて、のんびりと会話を楽しんでいた。 雪兎が明智を見てからは特に何の動きもなかった。 いや、何もなさすぎて逆に気を付けなければいけなかった。 そして、公園を出てすぐの交差点に差し掛かった時だった。 交差点の向こう、淡いライトの下にそれはいた。 ゆらりと佇む影。 光を受けて輝く白銀の髪。 「明智っ!」 「政宗?」 雪兎の肩によじ登り、声を張り上げた。 元々人通りも少なかった為、俺の声が聞こえたようだ。 そいつはゆっくりとこっちに振り向いた。 そうだ、あれは間違いなく明智光秀。 本能寺で小十郎が葬ったはずの明智光秀だった。 「明智、テメェ!!」 「おや、独眼竜?その彼女……あぁ、なるほど、そうでしたか」 一人で納得しやがって。 何故テメェがここにいる。 何故、そんな姿のままだ。 聞きたい事は山のようにあり、それを制御出来なかった自分が悪かったんだ。 雪兎の肩から飛び降りて真っ直ぐ走るのは明智の元。 信号が、点滅を始めていたにも関わらず。 「政宗ぇぇ―――っっ!!!」 鈍い音が響いた。 それは何かと何かがぶつかる音で、衝撃はもちろん俺の体にもやって来た。 ふんわりと地に足が着いていない感覚に、己の体が宙を舞っているんだと直感で感じた。 まるで時がゆっくり進んでいるように、信号の青いライトが見え、次に星の綺麗な空が見え、そして俺の体は柔らかな地面へと落ちた。 何があったのか分からないまま、軽く痛む肩を押さえて立ち上がる。 どうやら落ちたのは緑地公園の出口にある草むらの中。 かなりの衝撃で飛ばされたようだ。 「Hey、雪兎……」 雪兎の名を呼んでハッとする。 そういえば、さっき走る俺の体を掴んだ手があった。 俺の名を、張り裂けそうな声で呼んだ奴がいた。 知っている。 あれは俺の大事な…… 「雪兎っっ!!!!」 「キャァァァアーーーー!!」 雪兎を呼ぶ声と、女の悲鳴が被った。 交差点のど真ん中、車のライトに照らされる人の姿。 女だ、女の姿だ。 その女が近付く先に、地面へ突っ伏している人の姿。 見覚えのあるシャツ、見覚えのあるスウェット、見覚えのある姿。 そうだ、知っている……あれは…… (雪兎だ) 悲鳴を聞き付けて人が集まって来る。 一体何なんだ、これは…… 雪兎は何故、倒れてる? 雪兎は何故、動かねぇ? 「救急車をっ!!」 「大丈夫か?君?」 「しっかりしなさい!!」 雪兎の体を、頭を触った男の手。 真っ赤に染まる両手が見える。 「雪兎……、雪兎っっ!!!!」 飛び出そうとした矢先、首根っこを掴まれた。 そいつを見れば白銀の髪。 「明智っ!!」 「今は行かない方がいいですよ」 「離しやがれっ!!」 「今行って、あなたの存在が他人に知れるとどうなります?」 「っ……」 「彼女に迷惑を掛けたくなければ、ここで大人しくしている事ですね」 そう言って明智は公園の奥へと姿を消した。 しばらく経つと赤いライトが眩しい車が何台かやって来て、その中の1台が雪兎を連れて何処かへ消えた。 残りの何台かも、人だかりに話を聞いていた。 (雪兎……、怪我してるって事か……) 情けねぇ……この俺が動揺してやがる。 天に昇る竜であるはずのこの俺が、誰よりも天下を取るに相応しいこの俺が。 「Shit…!!」 どうして俺はこんな姿だ…… どうして俺は…… (雪兎……) <Next> [*前へ][次へ#] [戻る] |