親指筆頭
異世界を渡る
「Are you ready guys?」
織田包囲網も成功を収め、晴れて奥州から天下を狙えるようになった。
後ろに控える小十郎、成実、伊達軍。
俺に付いて来れば天下が見られる。
「政宗様、いかがですか?」
「Ahー…、やめていいか?」
「なりません」
執務にも飽きて来た。
毎日毎日、どうでもいいような内容から重要事項まで目を通す。
一国の主であれば当然必要な責務だ、仕方がねぇ。
だが、こうも毎日詰めてたんじゃぁ体がなまっちまう。
「少し体を動かして来る」
「逃げられませぬよう」
「Okay、分かってる。少し屋敷の周りを回って来るだけだ」
ふらり、と立ち寄った土間からは昼食の準備をしているであろう香りが漂って来ている。
声も掛けずに入り、置いてある料理を一摘み。
なかなかの味だ。
「ま、政宗様っ!?」
「おっと、Sorry!旨かったぜ」
気付かれ、声を上げられた為そそくさとそこを出る。
廊下の途中で家老が声を掛けて来て、今後の事を聞かれて答える。
侍従長に「甲斐よりの届け物」と言われた品は部屋に運んで小十郎に処理させるように伝える。
「いつもながらHardだ」
家督を継いで、奥州を平定。
上杉も武田も北条も徳川も、奥州を危険視している事はもちろんの事、この独眼竜がいるからこそ大きな動きは出来ないと踏んでいるだろう。
どこかが空けば攻め込める手筈は整えてある。
天下を取るのは他の誰でもねぇ。
この俺だ。
(…にしても、今日はやけに体が重い)
甲冑を着込んで庭先に出た。
朝起きた時からどこか可笑しな感じだった。
特に何が、というわけでもなく何となく。
何かが纏わり付いているような、何か引っ張られているような。
「政宗様、出掛けられる前に茶を用意させますが」
「ああ、頼む」
俺に気付いた小十郎がそう言ってその場を離れた時だった。
ふわりと体が浮くような感覚。
地に足はしっかりと着いているはずなのに、感覚がない。
そして、足元の地面が黒いうずを巻いて俺を飲み込もうとし始める。
「Shit!何だっ!」
真っ黒のそこは、まるで穴だ。
黒よりも更に深い漆黒の闇。
そして、そこから黒い手が何本も現れて俺の体に絡み付く。
小十郎っ!…そう叫ぼうとして渦に飲み込まれた。
黒い暗い真っ暗な空間に。
「政宗様?」
残された小十郎がそこに戻った時、そこには俺が持っていた手拭いだけが落ちていた。
ほんの一瞬の出来事だった。
そして……
「何でだろう……伊達政宗がいる」
雪兎と出会った。
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