[携帯モード] [URL送信]

親指筆頭
大切なものは失って初めて気付く



雨が降って来た。

まるで、今の俺の心を表しているかのようでイラついた。
舌打ちしたところで雨は止まないし、俺の存在にも気付かないだろう。
元々こんな体の俺だ。
それに、気付かれたとしても誰もが雪兎のように受け入れてくれるわけじゃない。
こういう状況になって初めて、自分にとっての大切な存在に気が付いた。
寂しい、怖い……とっくに忘れていた感情が呼び起こされる。

昔に封印した記憶。
実の母親から化け物と呼ばれた日、愛情を失った日。
実の父親を救えなかったあの戦、あの温かい眼差しを失った日。
毒殺未遂・実弟の処刑・母親の幽閉・人取橋の戦……

愛されている実感、必要とされている実感。
今まで以上に欲した日々。
辛く長い、苦痛の日々。
奥州の主としての責務・重圧・不安や恐れ。
天下の独眼竜の本来の姿。
弱い己を見せられる存在。



(小十郎、俺はどうすればいい……)



動くべきか、動かざるべきか。
背を守るものはいない、背を狙うものもいない。
だが、不安で不安で、どうしようもなく不安で……



(雪兎っ!!)



雨が更に激しさを増した。
今いるここが水没するのも時間の問題かもしれない。
どうにか頭の隅に追いやりたい考え。
赤く光るLightに邪魔をされて、その考えが前へ前へと出ようとする。



(どうか、無事でいてくれ……)



とにかく落ち着こうと視界を遮断し、ジッと耐えた。
そして、フッと気が付いた時には、あの赤いLightがいなくなっていた。
あれほどに騒がしかった人だかりも。
だが、これからが問題だ。
ほとんど光もない。
あるとすれば信号機の色ぐらいだ。



「――――!」
「What?」



誰かの声が聞こえた気がした。
それは話し声や何かのアナウンスではなく、ちゃんとした誰かを探す声。
耳を澄ます。
聞こえるはずだ、神経を研ぎ澄ませ。
意識が声の方向へと走る。
そして……



「伊達〜、いるのか〜」
「燐っ!!」



正しく燐の声だった。
しっかり探しているつもりだが、何処か面倒そうな。
それはあいつ以外ありえない。



「燐、ここだ!」
「えっ、何処だって?」
「Hey、Hey!」



俺のいるところを1度通り過ぎ、そして戻って来た。
ピンク色の派手な傘、そしてその手に握られたものを見て胸が苦しくなる。



(雪兎の携帯……)



俺は雪兎を、雪兎を守ってやる事が出来なかった。
一人こんなところに取り残され、そしてただ助けを待つだけで。



「伊達、ここに入れ」



ハンカチで包まれ、燐のBagに押し込まれた。
頭を拭いている間にタクシーを捕まえていた。
そして向かう先は……



「第二中央病院まで」



<Next>

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!