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親指筆頭
同族、手強し



「本当に伊達政宗とか言うんじゃないだろうな?」



ベランダに出て煙草に火を点けながら燐が問い掛ける。
まだ信じていないのか、はたまた何か理由があって聞いているのか分からない。
心が読めないし、考えも分からない。
非常に厄介な女だと思う。



「前に言ったはずだ」
「雪兎はあんたを伊達政宗だと?」
「Yes」



得意気にそう答えてやれば、あっさりと「そうか」とだけ返して来る。
この燐という女にとって、雪兎の言葉はそれだけの影響力があるのだろうか。



「雪兎はな、他人と同じ空間にいる事を非常に苦痛と感じるんだ」



煙草を携帯灰皿でグリっと消し、窓を閉めながらそう言った。
正直雪兎について知っている事なんて皆無に等しい。
そして、目の前のこの女はそれを知っている。



「教えてくれ、雪兎の事を」
「知るか、雪兎に聞け」



カチン、と来た。
人がしおらしくしてやればいい気になりやがって!!



「あいつは私をドン底から救ってくれた恩人だ」



文句の一つでも言ってやろうとした矢先、燐がそう口を開いた。



「あいつと初めて会ったのは中学生の時……つまり、今から5年前だ」



***



中学もほとんど行っていなかった。
つまり、言うところの不良少女という奴だった。
暴力・飲酒・喫煙なんて当たり前。

父は獣医で、母は歯科医。
医者の家庭で育つ、いわゆる上流階級の家だった。
三姉妹の末っ子、姉は二人共歯科医。
当然医者になるだろう……それが幼い頃から嫌だった。
反発して、親に手を挙げて、金もむしって。
仲間ともそれなりに上手くやっていたし、警察沙汰になっても逃れるように考えていた。
私はいつも仲間の中心にいて、いつも私を頼ってくれた。
でも、それが苦痛で……中学三年になった時に仲間から抜けた。
それが原因でボコボコにされて入院。
その入院先にあいつが来たのが始まりだった。

どこかで見た事のある顔が隣のベッドの見舞いに来ていた。
ジッと見ていると目が合って、苗字を呼ばれた。
誰か、と聞いたら「同じクラスの柊です」って。
私を見て普通に接して来た。



「で、雪兎はどこ行くつもりだ?」



受験勉強について話をしていた時に聞いた事だった。
そうしたら雪兎は「定時制を受ける」そう言った。
一人で暮らしたいから昼間は仕事をしたいらしい。
しかし、結局許されなかったようで、雪兎は普通の高校へ進んだ。
そして、私も。
雪兎の存在が自分にとってすごく眩しいもんだと気付いた。
退院して学校に行くようになっても、雪兎だけは違った。
普通に接し、私を見てくれた。
親が医者だから、姉が歯科医だから……そんな事は関係ないと。



「燐は、燐でいんじゃない?医者になりたいならなって、なりたくないなら他の仕事でもすればいい」



雪兎からしたら普通の言葉でも、私にとってはすごく嬉しかった。
学校に行けば雪兎に会える。
雪兎がいれば何でも楽しい。



「だから、私にそういう世界を見せてくれた雪兎は、私の太陽だ」



黙って聞いている伊達。
どう思ったかは知らないが「そうか」とさっきまでとは違う口調で答えた。
どういう関係なのか、どういう経緯で一緒に暮らすようになったかは知らない。
けど、雪兎がこいつを傍に置いているなら信用出来る。
だから私も信用する。



「伊達」
「Ah?」
「雪兎を傷付けたらどうなるか、分かってるな?」
「Ha!野暮な事ぬかしてんじゃねぇぜ!俺を誰だと思ってやがる」



きっと、雪兎は最後は泣く。
こいつが手元から消えたら泣くに決まってる。
それでもいいのなら、私は見守る。
大切なあんたをな。



「何でそんなに仲良くなってんの?」



風呂上りの雪兎が、私と伊達が話し込んでるのを見て、呆れた声を上げていた。



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