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親指筆頭
似たもの同士



「バカかっ!てめぇは!!」



今俺は、正座の雪兎に説教をしている。
明智に会った事を聞かされた後、怪我はないか……、何もされてねぇな……と一通りの心配はした。
だが……



「危機って言葉は頭にねぇのか!!」
「だって……」
「言い訳はいらねぇ。何でそんな無茶をしやがる!」



何故かと聞いても、的確な理由は見つからない様子。
ただ「確かめたかった」と、そう言うだけだった。



「明智の野郎は、俺の名前は出してねぇんだな?」
「うん」
「なら、まだ狙われてると決まったわけじゃねぇだろ」
「でも、もしそうだったら……」



雪兎は言う。
無事に帰すと政宗に約束したから、政宗を守れるのは私だけだ、と。
女に守られるわけは当然ねぇ。
だが、この姿で一体何が出来る?
元の体に戻ったのもあの時だけ。
目が覚めると雪兎の長い睫毛がすぐ傍にあった。

明智は普通の姿で、俺はミニマム。
もし雪兎に何かあったら、襲われでもしたら、俺の目の前で傷付けられでもしたら……
考えただけでぞわりとする。
その時だった。



――ピンポーン



会話を遮るように鳴るチャイム。
雪兎と顔を合わせて合図をする。
スコープの先に人はいないと雪兎。



「開けるよ、政宗」
「Okay」



開けた先には……



「誰もいない」
「どうなってやがる」



確かに誰もいない。
はずだった……



「Shit!雪兎、向こうだ!」
「ぎゃっ!」



雪兎に覆い被さるように抱き付いたそいつ。
俺は咄嗟に、敵の足元を斬り付けた。
小さくても俺の六爪は斬れ味抜群だ。



「いったぁっ!?」



女の声がした。
その声に素早く反応したのは、さっき悲鳴を上げた雪兎だった。



「燐?」



そこには女が一人、雪兎に抱き付くような格好で立っていた。
そして、俺と目が合う。
が、目が合った瞬間に嫌な感じがした。
近付いてはいけないような、危険かもしれない香り。
無愛想な表情、俺を小馬鹿にしたような表情。



「こいつがペットか?雪兎」
「え、あ、うん、そうなの」



雪兎から離れ、俺に傷を付けられたそこから流れる血をひとすくいし、ペロリと舐めた。
こいつ……



「こんな珍妙な生き物よく飼う気になったもんだな」
「あはは……」
「伊達政宗、だったか?ふん」



つま先で蹴り飛ばされ、俺の体がまるでおむすびのようにコロコロと廊下を転がった。
あいつの声は紛れもない、あの時の電話の声だ。
人を見下したような、俺を俺とも思わぬ態度。
この感情を知っている。
これは正しく……



(同族嫌悪、だ)



自分と同じ匂いのする女、僅かに薫るそれに混じってだが今更気付いた血の匂い。
ハッと我に返って雪兎に叫ぶ。



「雪兎、そいつは危険だ!血の匂いがしやがるっ!!」



忠告した俺に向かって二人の視線。
そして……



「政宗……ふふっ、あはははは!」
「こりゃぁ、傑作だ」
「What?」



雪兎が俺を拾い上げ、肩に乗せた。
少し乱れた髪を小指の爪で梳いてくれる。



「ごめんね、政宗」
「Ah?」
「彼女は燐。私の親友よ」
「Friend?」
「そう。大親友。そして獣医さん」



獣医。
何かは分からなかったが、家畜やペットの病気や怪我を専門に見る職業の奴らしい。
ここに来る前にも手術を何本か終えて来たとか。
なるほど、そりゃ血の匂いもする。

燐という女は派手だった。
雪兎の親友というには少し意外で、男みたいな喋り方のわりに汚らしくはない。
どちらかというと女が憧れそうな女だろう。
Cakeなんかこんな時間に摘みやがって。
太っても知らねぇぜ、ったく。



「あんまり驚かないね、燐」
「小さい事には多少なりとはな。けど、雪兎が世話してんだから信用出来るって事なんでしょ?」



イチゴを突き刺したままのフォークでグリグリと虐められたままの俺……
おかげで生クリームまみれじゃねぇかよ。



「で、今日はどうしたの急に?」
「んー、雪兎の定期点検?」
「何よそれ」



雪兎がすげぇ楽しそうに笑う。
まるで、俺の存在なんかないみてぇに……
悔しい。
今までは俺があいつの笑顔を独占して来たのに。
何で突然現れたお前になんか……

そこまで考えてハッとした。
何を考えてる、俺はっ!
突然現れたのは俺の方じゃねぇか。
もしかしたら俺と同じ事をこいつは考えてここに……
すると視線が絡む。
もちろん、燐とだ。



「ねぇ、雪兎」
「ん?」
「少しこいつと話したいんだけど、いい?」
「いいけど、珍しいね、燐」
「まあね。風呂でも入っておいでよ」
「分かった」



風呂へ向かった雪兎を見送る俺と燐。
そして、二人だけの空気になった。



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