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韋駄天は風を切る
左助side



「旦那ぁ、飛翔の後をついて行くだけだけど、ホントにこっちであってんの?」

「うぅ…某にもわからん…。
だが、今は飛翔殿を信じて追うしかないだろう」


真田の旦那が言った事に、風がかき消す程の小さい溜息を吐く。
俺達より少し先を飛ぶ、紅い羽根を羽ばたかせた鳥、飛翔。
兎琉の式だからと気を辿らせて、姿を消した兎琉の後を追う。
だけど、今だに見つからない。


姿を眩ませてから数日。
師匠の明葉様と例の式、三人でそう遠くまで行ける訳がないと高を括り過ぎた。


ヒノエが走って行こうとした時、俺が行ってりゃ良かったぜ。
何とも微妙な気持ちが押し寄せる。


「左助っ、飛翔殿の動きが早くなったぞっ!!」


そう言ってスピードを上げる旦那。
もしかしたら、兎琉を見つけたのかっ!?
そう思いながら、俺もスピードを上げて後へと続く。
無事だと信じてはいるが、焦る気持ちは拭えない。


兎琉がまだ、齢12の頃。
俺達の世界、戦国の世であいつを拾った。
それから、一年余りの時を共に過ごしてきたんだ。
寝食を共にし、戦にだって出た。


最初の頃は、刀なんて振れるのかよ?なんて見くびっていたんだ。
でも、あいつは…兎琉は、御館様や真田の旦那と互角に張り合う程に強く。
その若さで戦乱の世を走り抜けた。
第六天魔王、故織田信長をも退けるくらいに。


そんな女が易々とヤられる訳がない。
兎琉がいなくなってから、何度同じ事を思ったか…。
理屈じゃない。
始めの頃、兎琉が俺や御館様、真田の旦那に言った『信じてほしい』という言葉。
俺はそれを、今もずっと違える事なく刻んでる。
だから理屈じゃない。


そう信じてる…信じてるんだ。
なのに、俺の胸を襲うこの゙嫌な予感゙が、それを信じさせようとしやがらねぇ…。
どんなに゙それ゙を振り払っても、厭きもせずに追いかけてきやがる。
とんだ鼬ごっこだ。


今この場に御館様が居たら、間違いなく殴られてるのは真田の旦那…ではなく、俺の方だろう。
でも今はそれが欲しい。


殴られて諭されて、俺を捕まえようとする゙それ゙から逃れたい。
じゃないと、兎琉を信頼している心が…折れちまう…。


「左助っ、兎琉殿なら大丈夫だ。
あの方がそう易々とやられる方だと思ってるのか?」


そう言ってきた旦那に、いつの間にか俯かせていた顔を上げる。
内心、驚きを隠せない。
旦那が俺の…人の心を読むなんて…!!
馬鹿にしているとかそういうんじゃないけど…。
この人って、どっちかっていうと天然じゃん。
そんな事を口にするとは、思わなかった。


「むむっ。左助、今酷い事を考えなかったか??」


また読まれたっ!!
なに、とうとう旦那は変なスイッチでも入っちゃったのか!?
驚きを隠しきれない頭でそう呟き、真田の旦那へと慌てて返事をする。


「そんな訳ないっしょっ!!!」


慌てる俺を振り返り、首を傾げて「そうか」と言った旦那に、頭の中で゙天然万歳゙なんて言ってみる。
そしてそんな事をしていれば、ピーチチッと飛翔が鳴いた声がした。


兎琉を漸く見つけたらしい飛翔に安堵の溜息を吐き、それへと続く。
そして気付く、いつの間にかなくなっていた俺を捕まえようとしていた腐の気持ち。
今回ばっかは、旦那に借りができちまったな…。
そう思い薄く笑みをこぼす。
そして誓う、もう迷わないと。
だから待ってろ、今お前を捕まえに行く。









時として狂気は牙を向く…。









左助…何気に書きやすいけど…。
どうやら作者が書くキャラ達は崩れていく…泣
09/09/21

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あきゅろす。
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