闇夜 「星が近っ!!」 闇夜の中、自由を取り戻した身体で京の町中を徘徊していれば、耳に水の流れる音が聞こえてそこに脚を運んだ。 そこには静かに流れながら、空に聳える月を水面へと写しだし、その淡い月光でキラキラと輝く川が流れている。 瞳を輝かせながらその川を挟む土手へと歩み寄り、そこへ手足を投げるようにして寝そべった。 空を見れば満点の星空。 今にも手が届きそうなくらい近くにそれを感じる。 幻想的な世界が、今まさに目の前に転回しているのだ。 これに無感動な奴はいないだろう。 誰だって、誰が見たって綺麗なものは綺麗なのだ。 「良い眺めだな…。 一人で見るなんて勿体ないよ。 でも、誰にも教えたくない気も…」 星を眺めながら、うぅ〜んとひとりごちる。 そうすれば、ガサリっと草が動いた音。 こんな時間に人がいる訳がないのに…。 そう思いながらも、ゆっくりとそちらに体勢を変え、視線を飛ばした。 「こんな夜更けに、何をしているんですか。兎琉さん?」 現代とは違って、足下を照らす外灯はない。 ただひたすらに月が地面を照らす灯りだけが頼りだったりする。 そんな真っ暗な、頼り無い薄明かりの中を、真っ黒い何かの影が言葉を発したのだ。 いくらなれているからとはいえ…正直、怖かった…。 「おや、わかりませんか? 僕です。弁慶ですよ」 クスクスと鼻で笑いながら、わざとらしい言い方をしてくる弁慶に、内心イラっとくる。 「残念。君等八葉の気は一般人と違うからすぐに気付いたよ…」 囁かな抵抗…。 星に気を取られて、気を見るのが遅れたから誰かわからなかった…なんて、絶対に言いたくないっ。 だから、囁かな抵抗…。 「ところで兎琉さん。邸を抜け出し、こんなところで何をしていたんですか?」 一頻り楽しんだのか、笑顔のままでそう聞いてくる弁慶に、聞こえないよう小さく舌打ちをした。 そうすれば、またもや楽しそうに、ふふふっと笑いをこぼす。 舌打ちをしたせいか、聞こえてはいないと思っていても、内心ドキドキしている小心者な私…。 「身体が自由になったから、つい邸の外に出ちゃったのよ…」 弁慶の質問に、プクリと頬を膨らませ、唇を尖らせてそう言えば、今度は真剣な顔を作って私を見てきた。 「夜更けに、女性の一人歩きは危険ですよ…。 この世界で危険なのは、怨霊だけじゃないんです…」 真剣な表情を崩さず、私の顔を覗き込んでそう言ってくる弁慶の顔は、月光に照らされて益々妖艶差を増幅させた。 その顔を見ていられなくて、おもわず下を向く。 そうすれば、またもガサリとなる草を踏み締めて歩く音がする。 その音に混ざって、ガシャリ…ガシャリ…と何かが擦れる音。 近付いてくる気に禍々しさを感じる。 弁慶とゆっくり音のする方を振り向けば、ボロボロの甲冑を纏った……骸骨の姿。 「やれやれ。清明殿ではないですが、゙男女の逢瀬を邪魔するなんて、無粋な方゙ですね…」 そう言った弁慶が、厭きれにも似た溜息をひとつこぼした。 そんな事、言ってる場合なのだろうか…?? 09/08/07 [*前へ][次へ#] [戻る] |