男の物言いに好樹は悪寒を感じて細い肩を震わせた。同時に話に夢中になっている男から距離をとるように退き始める。
 男はそれに気付いているのかいないのか、尚も饒舌に口を動かした。
「ね。だから王子さまは2人も要らないんだよ。王子さまに必要なのはただひとつ、番(つがい)となるお姫さまだけ」
 話題が首尾一貫しない男に好樹は耳を塞ぎたい気持ちを押さえつけた。耳を塞ぐなどわざわざ男の注意を好樹自身に戻すだけだ。フラストレーションが蓄積された好樹の体の先端は、ぴくぴくと痙攣が走っている。
「ボクが王子さまで君がお姫さま。2人はお城のなかで一生幸せに暮らすんだ。――2人だけで」
 幸せ――その言葉に好樹の我慢は限界に達した。男の言葉が途切れ沈黙が支配するかに思われた空気は、好樹の低い声によって阻まれる。
「そんなもん無理に決まってんだろ。人は独りじゃ生きていけねぇんだよ」
 吐き捨てるような、掃き捨てるような、怒りを孕んだ好樹の音が男の耳にぶち当たる。
「ヒトリ? お姫さまはヒトリなんかじゃないでしょ? 王子さまが、ボクがいるじゃ―――」
「心の通じ会わない奴しか存在しない世界なんて、独りで生きていくのと何も変わらねぇよ! そこにどんなに優秀な設備があろうと、どんなに旨い飯があろうと、どんなに肉体的に充実してようと! 心が活きてねぇならそんなモン、死んでんのと何が違うってんだっ!!?」
 男は好樹の喚きにキラキラと光っていた顔を俯かせた。左手は体の横に力なく垂れ下がっている。
 そして男は独白を口にする。


 

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