好樹の怒号に男は大袈裟に肩を揺らし、動きをピタリと止めた。ナイフを持った左手は男の胸の辺りでゆらゆらと不安定に揺れている。顔の作りで唯一光に晒されている口元が呆然といった感じで大きく開けられていた。
「えっ、なに?」
 驚愕を隠しきれない男の姿に、好樹は動きを止められたとほっと一息ついた。
「そのお姫さまって止めてくんねぇ。まずおれは男、メイルだから。それと、さっきから気になってたんだが『あの人』って誰だよ。『あの人』がお前に今回の件を依頼したんだろ? だったら『あの人』はおれに何の訳があってこんなことやるんだ。そいつはおれに恨みでもあんのか?」
 好樹は親指を自身に向けて言い放つ。その声音は些か不満そうだ。
「ええー。良いじゃん、お姫さま。よく似合ってるよ?」
 男は好樹の姫がイヤ発言に癪が触ったようで、頬を駄々っ子のように膨らませた。
 好樹が訪ねた『あの人』のことには一切触れる気配を見せず、男は話を進める。
「それに、ボクの好みなんだよね。君。だから頼まれた通りに君をぐちゃぐちゃにしたら、ボクが貰っちゃおうと思うんだ!」
 男の左手ではナイフがくるくると回っている。ペン回しをするのに似た気軽さで男は凶器を指で弄る。
「ボク以外の奴に触れないように部屋に閉じ込めて、ボク以外の奴が君を見ないようにしっかり鍵を閉めておくんだ。だって君の全てはボクのもの。君の匂いすら、ボクのモノなんだから!!」


 

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あきゅろす。
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