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「…………なに、しに来たんだよ。義兄貴」
 狭いアパートの畳の上に胡座をかくおれと、正座をする義兄。悠理家嫡男の義兄がこんなところに座っているのは、何だかミスマッチ過ぎる。
「何って。好樹、何度も言ったけど、家に帰ってきなさい。今ウチの会社がどれだけ厳しい状況に置かれているか分かってるでしょう? 不況で経営が低迷している上に、最近はタツグループの台頭が著しいし………そんな中で一人の好樹に何かあったら……もしも誘拐でもされたら、ただでさえ今ウチにはお金がない。それで会社が経営破綻でもしたら、困るのは好樹も同じなんだよ? もう少し自分の立場に責任を持って欲しい。養子だとしても、好樹はれっきとした悠理家の次男坊なんだから」
 今の話で分かっただろうか。悠理の家は、竜家と肩を並べる大財閥だ。
「わかってる……」
 そう言うと、義兄は少しムッとした顔をした。
「分かってないよ、全然分かってない。どうして? 僕らはこんなに好樹のことを心配してるのに。…………好樹はいつもそうだ。家に来たときから僕らを見ようともしない。挙げ句には家出なんかもするし…………一体、何がしたいの? 好樹は僕らが嫌いなの?」
「ちがう。嫌いなんかじゃ……」
「じゃあ、お願いだから戻ってきて」
 義兄の心配そうな視線がおれの体を貫く。
「…………好樹」
 言葉に詰まる。戻りたくない訳ではない。だが、あそこに居るとどうしても辛くなるのだ。心が軋んで痛むのだ。だから、
「………いやだ」


 


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あきゅろす。
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