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気温の差が激しいのか、車に乗り込んですぐに曇り始めたガラス。灰色ばかりの殺風景な外を、曇った窓から眺める。高速に流れる景色は、見ているだけで無心になれた。耳の奥から聞こえる超低音のざわめき。鳴り渡るそれは、おれの心であろうか。
「好樹君、息子のことなんだが」
隣に座っていた巽の父親に目を向ける。彼は乗り込んだときと変わらず前方を見つめて、感情のない顔をしていた。タツと言う、世界を代表する名門家の当主である彼。子供の頃からまるで大人であるかのように育てられた人。産まれた時から自由を奪われた者の末路は皆こうなるのだろうか。感情のほとんどシャットアウトして、常に会社のことを考えている悲しい人間。巽も、いつかはこうなってしまうのだろうか。
「転校することは聞いているかね」
「あいつ、転校するんですか!?」
ずっと疑問に思っていた巽のチーム抜けにようやく納得がいった。きっと、チーム抜けを覚悟するほど遠いところに転校するのだろうから。
「……ああ。だからこの期を境に、もう、息子とは関わらないでくれ」
驚愕で自分の目が見開かれるのがわかる。
「今までは自由にさせていたが、これから息子には、本格的に将来について考えさせたい。君のような、学校にも通わず非行をしている者とは、これ以上関わらせたくない」
車の速度が落ちてくる。おれの家はすぐそこだった。
声を出せないまま、車を降ろされる。冬の冷たい風が、突き刺さるような感じがした。
「持っていきなさい」
茫然自失としているおれの手に何かを掴ませて、彼は去っていく。窓が閉まる直前の彼の顔は、やはり感情がなかった。
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