40



「で、何でホシキがついて来るんだ」
 あとひとつ角を曲がれば我が家に着くといったところで、おれはそんな言葉とともに振り向いた。そこには空の『ハチミツれもんサイダー』を握りしめて立ち尽くすホシキ。唯一見える口許は機嫌悪気にへの字型をしている。
「いいじゃーん。ボク、姫に喧嘩売った不届きものを2匹も退治してあげたんだから。お礼に姫の部屋ぐらい見せてよー」
「確かに助けてもらったが………」
「ほらー。姫は感謝を忘れるような人じゃないでしょ? だーかーらー。お礼に部屋行きたい! ダメ?」
 おれよりも高い目線で可愛らしく首を傾げても、残念だが不恰好にしか見えない。
 おれは仕方なく、ホシキを案内するように歩き出した。溜め息が出る。
「………どーぞ。何も無いけどな」
 しぶしぶ吐いた言葉にホシキが盛大に喜ぶ声がする。勝手におれの部屋を想像するのは良いが、何でよりにもよって女子のような部屋なんだ。ウチにはピンクのカーテンも、可愛らしいクマのぬいぐるみも、フリフリのエプロンも無い!
「あ………クマのぬいぐるみはあったか……」
 迷彩柄の布で作られたそれは、以前巽に貰ったものだ。座高20センチという手のひらサイズだが、おれは結構気に入っている。足裏に『I love camouflage』と刺繍されているのも、巽の好みが良く表されている。
(あいつ、極度の迷彩柄好きだからな)
 でも今は巽のことを考えると悲しい。
 あの時の血に浸った迷彩柄のプレートを思い出す度、悔しさと怒りで奥歯を噛みしめている。
「おっじゃま、しまーす!」
 そうこう考えている内に、アパートの2階にある我が家に辿り着いた。
 ホシキは待ちきれなかったのか、おれの手から鍵を奪い去り勝手に入っていった。まるで小さな子供のように淡い赤色の目を輝かせながら。


 

戻る*進む#

4/13ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!