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「こうなったら………戦争か」
つまり遠雷のリーダーを狩るということ。そして、容易く再興できないように副リーダー以下の幹部を負かすこと。それが好樹の吐いた『戦争』の意味。
実力とカリスマを備えもつ者がいなくなれば、不良どうしの繋がりなどは瞬く間に空(くう)に解けてその色を薄めていく。結果的にチームは自然消滅。彼ら遠雷のメンバーは何の肩書きもない『できの悪い子供たち』へと戻る。
もっとも、これは好樹たち鴇代にも同様に言えるわけだが。
明滅を繰り返す外灯に差し掛かった時、好樹は唐突に立ち止まった。
好樹の視線は不自然に思われない程の忙しさで辺りを注意深く見つめる。
「気のせいか………今……」
誰かしらの気配を感じた好樹は、ゆっくりと手を握りしめる。上体を僅かに前へと運び、重心を腰に落とす。足先まで神経を尖らし、好樹は臨戦態勢をとった。
好樹の視点はなおも広範囲に巡り続ける。外灯の明かりが届かない死角。コンクリートでできた塀の上。数メートル先の曲がり角。小石を踏みつける足音。己の速まる心拍音。止まる風。途切れる車の音。額に伝う汗。
視覚、聴覚、感覚、それらすべての感覚器官を研ぎ澄ませる。
好樹の頭上の外灯は一定の間隔で明滅を繰り返している。数秒、数十秒と時が経つなか、加速度的に明滅はその繰り返しを速めていく。
好樹にはそれが何かの警告のように思えた。
好樹の緊張はとうとう外灯が消えたときに、ピークに達する。けれど、好樹の気持ちとは裏腹に何もそれらしい事態は一行に発生しない。
勘違いかと弱まる緊張。直後に声は響く。
「こんばんは。トキシロのお姫さま」
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