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 巽がチームから姿を消して2日目のこと。あまりよい噂を聞かない男がおれの真ん前を陣取る。
「何かおれに用ですか。朱雷さん」
 巽の不在で下降気味であった機嫌が、さらに低空飛行を始める。おれの不穏な気分に気がついたのか朱雷の整った眉が著しく曇った。彼の瞳が色気ばむも、すぐにそれは隠される。
 それから、ワナワナと小刻みに震えていた唇を開いて、まるで己に言い聞かせるように俺様とも取れる発言をする。
「ふんっ。ウチはやさしいからなぁ、今回は許してあげる、姫――」
 とたん、呼吸が止まる。
 朱雷の武骨な指が首に食い込んで、おれの喉が悲鳴をあげる。空気の抜ける、か細い音がした。
「――次にそんな態度とってみろ。この首へし折るぞ」
 口調だけが変わった朱雷の低声。
 彼に逆らうような実際の行為はしていない。ただ、おれの目が気に食わなかった。きっとそれだけの理由で彼はおれに暴行を与える。朱雷が扱いずらい人材と言うのにも頷けた。
「わかったぁ?」
「…………はい」
 ニタと笑う朱雷に、今度は気づかれないように心の中で悪態をつく。
 ひとつこの時点で分かるのは、厄介な人物に目を付けられたと言うこと。着眼された所為を今現在の乏しい情報のもと推測するのには困難を要した。ただ、ひとつ考えられるのが――
「別にさぁ、ウチは君のこと追い出すために接触したんじゃないってー。だからそんな怖い顔しないのー。姫のキレイな顔にシワが増えるー!」
「………は?」
「あぁあ!! ほら、眉寄せない! 睨まないっ!」
 朱雷は苦笑しながら、おれの寄せられた眉間に人差し指を宛がった。おれがさらに眉間の凹凸を増やそうと力を込めると、彼は指をしつこく突いてくる。仕方なく、狭めた眉を広げてやった。
「それで、用は何ですか?」
 聞きながら、ブラックデビルを口にくわえた。
「そうそう…………今日、これからいい?」


 

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あきゅろす。
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