今日、鴇代は遠雷との闘争で完敗した。
『今日の闘争は負けと言わざるを得ない。重傷者は半数近い。メンバーの1人が見に行った時には、立つものは誰もなく、遠雷のメンバーも見受けられなかった。これによって遠雷の被害は定かで無いものの、こちらほど甚大な被害はないと思われる』
 鴇代の情報面の要とも言える者からのメールを思い出して、好樹は奥歯を噛み締めた。鈍い音が好樹の口の中で響く。3年前から鴇代の王座への道を共に歩んできた好樹にとって、遠雷などという新参に後れをとることがどうしても許せなかったのだ。
「くそっ!」
 深夜を過ぎた暗い路に足を打ち付けながら、好樹は煮えたぎる怒りの波長を音に乗せた。

 もともと好樹は喧嘩が不得意だ。世間一般では『多少はできる』方だと言えないこともないが、不良の喧嘩ともなるとそうはいかない。好樹自身の実力では手も足も、出すだけで精一杯といったところだ。実力がある者に対して反撃、ましてや勝利を納めるなど夢見もいい。かろうじて防衛が上手く継続できるくらいか。
 今使えない役たたずな力。好樹はまともに仲間を守ることのできない己の力に能無しのレッテルを貼り付ける。傷つけたくないと思うほどに、負傷者は増えていく。傷つけさせまいと闘争に参加するも、すぐにメンバーに連れ戻される。そんな自分に、好樹の怒りと不甲斐ないと思う気持ちが背伸びをする。


 

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あきゅろす。
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