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 誰かの喘ぎ声がする。
 女より低いそれは、明らかに男のものだ。
 視界はグラグラと絶え間なく上下する。
「好樹。こっち見て」
 無機質で面白味も何も感じられない天井から場面が動いた。
 見えたのは整った貌容の男。快楽のためか彼の柳眉は悩まし気に曇っている。身には一衣纏わず少しだけ焼けた分厚い胸板をさらけ出していた。彼の熱い瞳は、こちらを一心に射ぬく。
「好樹。まだダメ? まだ苦しい?」
 泣きそうな顔で彼は誰かに話しかける。″ヨシキ″とは、きっとこの視界の本来の持ち主であろう。
 その″ヨシキ″の口からは、相変わらず喘ぎしか漏れない。
 坊主髪を伸ばしてサイドを短く剃った所にラインを入れている彼の茶髪は、じとりと汗ばんでいた。
「…………っ、そっか。好樹、まだ……ダメなんだね」
 暗い顔をした彼は、次の瞬間腰の律動を急速に速めた。
 激しく揺れる視界はジェットコースターに乗っている気分になる。ガラガラとローラーが回ってコースターが上がって行く。焦らすように緩慢に迫り上がるそれは、頂点に達したとき一気に速度を増す。落ちて、堕ちて、墜ちて。周りの叫び声が煩くて、いつもそこで耳を塞ぐ。くぐもった音の世界で唯一鮮明に受け止められのは、身を切る風と、激しく揺れる視界。
 たぶん、憧れてた。叫べる周りが、声を出せる人が、羨ましかった。だから余計に耳を塞ぐ。塞げば塞ぐほど、苦しくなるのは知っているはずなのに。いつまでも揺れる世界を眺めていた。


 

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