20(noside)
遠雷が溜まり場としているバー″line″のすこし奥まった場所。落ち着いた焦げ茶色の壁に背を預けて、特徴的なタバコを手に会話をする男2人がいた。彼らが紫煙を吐くたび周りには仄かな甘い匂いが伝播する。
タバコがまだ長い内から沈黙した彼らは、周囲のほとんどの視線を向けられていることなど気にもとめていないようだった。それに気がついてはいる。が、無視をしているに過ぎない。注目が自分に集まることに彼らは既に慣れていた。
ふと、男の1人がタバコを持っていない反対の手で、自らの肩を抱き締めるが如くその小柄とは言えない体を縮こまらせた。彼の額にはうっすらと冷や汗が浮かんでいる。苦しげに眼を閉じる彼の手には、今もなお熱に侵食さているブラックデビルがあった。
浅い呼吸を繰り返す彼の腕には鮮やかな藍色――群青色――に輝る硬質のブレスレットがはめられている。彼が身動(みじろ)ぎをするたびにそれは幾つもの澄んだ音を生み出した。
今は青白く変貌している彼の肌だが、元は若者らしく血色が良い。唇も瑞々しい桃色をしているし、伏せられている瞳には強い意志が宿っている。
しかし、今はそのどれもが本来の姿を見せない。
調子のおかしい彼に気づいたのか、もう1人の男が彼の名を呼んだ。彼を何処からか引き戻すように、強く呼ぶ。
「シキっ!」
シキと呼ばれた少年はハッと眼を開き、自分を呼ばう相手を見た。
シキの手の中にあるタバコは先端が1センチほど灰に変わっている。
そんな短い時間、シキはなにか――バーの薄暗い室内ではない――別のものを眼に映していた。
それはリアル(real:現実)であり、テラー(terror:恐怖)であり、またドゥーム(doom:運命)でもあった。
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