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『好樹っ! よしき―――っ』

『あ゙、ああぁぁああぁあぁぁっ!』

――――っ………―――!



「シキっ!」
 はっとして目を開けると、幼馴染みの整った顔がおれを覗き込んでいた。
「どうした? 大丈夫か?」
 キリリと上がっている筈の巽の眉が、今は弱々しく垂れ下がっている。
「いや、何でもねぇ。へーき………少し昔のことを―――あぁ、そうだ。名前だったよな。思いだした」
 ふっと小さく息を吸い込んで、浮かんでいた冷や汗を拭う。今でも夢で魘されるその過去は、おれの恐怖を酷く煽る。起きた時ほとんど覚えていないのだが、今回のことで完全に思い出してしまった。トラウマとも言うべきおれの過去を。
「サツキ……サツキ―――名字は、覚えてねぇ」
「サツキ………ね。女の子?」
 おれの指に挟まれたままだったタバコを、巽がそのまま吸う。巽の手には短くなったタバコが握られていた。どうやらかなりの時間、おれは考え込んでいたようだ。
「吸うなら自分で持てよ――」
「そのまま持ってて。おねがい」
 煙をおれの顔に吹き掛けながら、巽はニコリと笑う。
「はぁ……男だよ。1つ上の」
「へーぇ。先輩か」
 とたんに巽はキレイな笑顔を引っ込めて、ほの暗い声をだした。
「シキ、キスしよ」
 壁際に立っていたおれの肩を巽は強く押す。顎を掴まれて強制的に巽と視線が交わった。
「なに、いきなり。欲求不満かよ、はっ。お前らしくねぇ」
「そうだよ。欲求不満だ。好樹が欲しくてたまらない」
 冷たく、けれど熱い視線を送ってくる巽に喉がなった。″好樹″とおれを呼ぶ時の巽は、本気でヤりたがっている時だ。
「いいぜ。ヤれよ、タツミくん?」
 微笑んだ巽の顔はいつになく情熱的だった。


 

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あきゅろす。
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