17(one's past:noside)



―――ギャァァアアー!!

 漆黒の鴉の叫び声に、少年の小さな肩は跳び跳ねる。
 空は灰色に重たく今にも落雷現象が始まりそうだ。薄い茶髪の少年は、不安気に揺れる双眼を大空へひた向けた。

『雨、降りそうだな。走るか、好樹?』

 怯えを目に宿す少年、浜崎 好樹(はまざき よしき)の隣には、全身を黒でかためた子がいた。彼は好樹の小さくて柔らかな手を握り、好樹の意識を自分に集中させる。

『う、ん……』

『家まで送ってく』

『え、でも。さつきくん、今日用事があるんじゃ――』

『いい。大したことじゃねーから。ほら、行くぞ。また降られたら厄介だ。好樹に風邪なんか引かれたらたまったもんじゃねぇ』

 とたんに少年の手をひっぱり、走り出す黒い子。
 黒い子の背中を見つめる少年の大きな茶目は、どこか熱を含んでいた。少年自信が気付かないほどの微細なそれは、きっと黒い子も気付けていない。
 2人が走るたびに水溜まりが弾かれて、水際立った音がする。チャプチャプと空気が揺れて、音を生み出した。
 黒い子の名前は夜廼 咲槻(よない さつき)と言った。彼は弱冠10歳にして某小学校の頂点にいた。生徒を括るその支配力は絶大であり、またある少年不良チームから勧誘を受けるまでの実力も備わっていた。
 彼の性格は極端で、好き嫌いが激しい。懐に入れた者や気に入った者には比較的甘く、他人や気に食わない者には優しさの欠片も伺えない態度に変貌する。
 だからこそ、皆彼に気に入られようと必死になる。だが、幸か不幸か彼は類稀なる観察眼の持ち主である。贔屓目で媚びてくる相手は決して相手にしなかった。


 

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