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「その言葉って、誰かの受け売り?」
 言いながら巽は自然な動作でタバコを取り出して、ライターを近づける。勢い良く燃える炎に魅いられていたから、少し返答が遅れた。
「ん、ああ。″諦めるな″ってのは幼馴染みの言葉だ。巽と入れかえみてぇに転校しちまったからな……お前は知らねぇと思う」
 巽はもう一本タバコを取り出し、おれの口にくわえさせる。ライターを近づけるかと思いきや、巽がくわえているタバコの先をおれのくわえているタバコの先に接触させた。火が移るまでの数十秒間、おれと巽の瞳はゆるゆると交わり続ける。
「ふぅん……そいつ、名前は何てーの?」
 おれから離れて、巽は紫煙を吐き出す。声のトーンが下がった理由は、おれには分からない。
 おれもつられてタバコを吸うとブラックデビルの甘い匂いがした。
「お前、これ好きだよな。……いつ吸っても甘ったりぃ」
「甘い匂いが好きなんだ。キャスターでも良いけど、やっぱりこっちが良い。シキはこれ嫌い?」
 ニコッと笑い、ブラックデビルの銘柄が印刷されている箱を見せる。
「いや、でも毎日吸いたいとは思わねぇな。毎日ショートケーキ食べたいと思わねーのと同じ」
「うーん。そーいうもんかぁ」
「そぉーゆうもん」
「……でさ、誰よ。オレの知らないシキの幼馴染みって」
 カチッと爪を弾いて、古い友人の名を思い出そうとする。
「お前が転校してきたのが、確か小4の時で……」
 大分のびてきた爪を見つめながら、あいつもおれと同じように青色が――特に群青色が――好きだったと考える。
 そいつはおれより1歳年上で。髪も目も真っ黒で、まるでカラスみたいな―――……っ。


 

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あきゅろす。
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