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「っ―――!! うっ」
 ようやく自分が恥ずかしいことを口にした事実に気付いた。頬が紅潮して、口元に手の甲をあてて慌てて顔を隠す。
「あー、つまり――」
 居たたまれなくて視線を落とした先に巽の靴がある。紺色に薄茶のラインが幾つも引かれていて、巽のサッパリとした雰囲気に良く似合っていた。
「つまりだ……自分に従えってこと。だから、巽がチームを抜けるのは止めたりしねぇ」
 自分の頬がぽっぽと熱を持っているのがわかる。これ以上説教じみたことを言うのは本望ではないが、あとひとつだけ、離れていく親友に伝えたいことがある。
 巽の靴から、ジーンズへ。黒いシャツからさらに上へ目線を動かす。
 迷彩柄のプレートがついたネックレスを視界にいれて、その上の端整な顔に焦点を合わせた。
「自分だけはどんなことがあっても失うな。どんなに辛くても″諦めるな″」
 自分だけは見失ってはいけない。
 心だけは諦観の念に侵略されてはならない。
 それは3年前からのおれの強い想い。
「それ、何度も聞かされた」
 ふんわり笑う巽に、おれもつられて笑みを浮かべる。
 止めないと言っても、心は荒んで仕方がない。何故出ていくのかと問い詰めて、理不尽な理由を押し付けて、無理矢理にでも引き留めておきたい。大切な誰かが自分から離れていくのがおそろしく受け入れ難い。ともすれば、瞬時に盲目になって相手を自分の傍らに縛り付けてしまいそうになる。
 それこそ、本当に閉じ込めそうで。
 おれが『目』を失ったあの日、あの時からその激情はじわじわとおれの心を蝕んでいった。


 

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