13(side Luri)



「好樹をココに連れてくる」
 彼の一言にボクは過去から引きずり戻される。彼の声は広いこの部屋に響くことなく、蓁(しん)とした月光に吸い込まれて行った。
 この人の持つ琥珀の左目が月光を鈍く反射する。深い黒を宿す右目には一切の光もない。
「学園に好樹を? なぜ今……」
 耳が痛くなるほどの静寂を感じたのはこれで2度目だ。1度目はあの日。夜中の公園で人生の淵を垣間見た時。車の音はした、人の笑い声も、葉の擦れる音も、風に揺らされたブランコの金属音も、音はあった。
 でも『オト』は聞こえなかった。今も同じだ。静かすぎて、耳が痛む。キンッと耳鳴りがし始める。
  ふと窓を見ると、一面ガラス張りの向こう側には真ん丸の月が浮かんでいた。こんなにもキレイな満月を掲げる大空に、少しだけ嫉妬する。月日とともに満ち欠けを繰り返す美しい月を抱くそれは、無数の星星に彩られてまるで夜の支配者だ。目の前でソファに身を沈ませる彼が大空で。だったら、ボクが月で。いや、月になれたらどれ程幸せか。
 けれど、好樹は?
 好樹が星であるならボクは星でいた方が幸せであろう。対等な位置を望むことが好樹に近づく最低条件ではないだろうか。迷うのは、ボクの弱さだ。力はあるのに使い方がいまいち判断しかねる。
 そして決断力に欠ける。これでは月にも、一番星にもなれやしない。
 ボクはもっと成長したい。それこそ好樹のように、強かに。
「決着をつける」
 それだけ言った彼は、視線でボクに退出を促した後俯いてしまった。
「よく分からないけど、おやすみ、サツキ」
 彼はボクの挨拶に反応を示さず、じっと何かを考え込んでいた。
 部屋を出ていく寸前、彼は言った。きっとその言葉を聞き取れたのは、お月さまだけだ。
 だからボクは月じゃない。
 月では、ダメだ。

「俺が、惚れ直すか――」


―――決着をつける


 月でいたら、大空に何もかも奪われてしまう。
 悠理 好樹は、ボクのものだ。
 狼の左目を持つあなたには、渡さない。


 

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