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「あの人言ってた。君の心は一度死んでしまったって。だから君はそんなことを言うんだ―――……」
男はフードの中の闇をさらに昏くした。
「好樹と名付けられた子供は3年前、光に満ち溢れた天国のように幸せな世界を喪った。家族と言う小さくて狭い世界から、子供は孤児という何の庇護もない大嵐の世界へと前兆なく放り出された。大きすぎる環境の変化は12歳の子供の心に重たい負担をかけ続けた。
たった数ヶ月だ。
子供が再び家族と言う温もりを取り戻す、その数ヶ月の間で………不安とストレスの重圧に耐えきれなかった子供の、真っさらな心は消えてしまった。
心が死んで、また新たな心が子供の中で産まれた。けれどそれは前みたいな白色ではなくて、もっと汚い、冥い色に染まっていた。
あの人は言ってたんだ。
産まれながらの穢れ。まるで原罪の証だって……」
地面を睨み付けていた好樹は唸るような声で言った。
「何が、言いたい」
「あの人は『そう』言ってたんだ」
好樹の言葉に呼応して、重苦しい空気を払拭させる男の声音が響く。
「ボクは君の心が汚いだなんて思わない。むしろ美しいと感じるよ。
何も知らなかった子供が世間の醜い実態を知って、逃げ方も分からずに私利私欲の荒波に呑まれて行く。まるで生きながらにして死んでいる心情だったろうね。なにせ今まで挿し伸ばされていた救いの手が、ふつりと途絶えたんだから。願っても喚いても、いくら望んでも救いだしてもらえないのは酷く、苦しかったはずだ。それはもう息すら出来ないほどに」
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