キミとボク、私と貴方
僕とトンファー
彼がトンファーを持ったのは、5歳の誕生日が過ぎた頃だった。
『きょーちゃあぁぁあんっ』
つまり、彼女も4歳になって間もない頃。
事件は、起きた。
雲雀に連れられて外で遊んでは転び、追いかけては転び……
愛は雲雀と遊んで帰ってくると、必ず傷に痣だらけになっていた。
雲雀が遊ぼうと誘ってくるのはほぼ毎日なので、傷が治る暇もないのだが。
ある日いつになく上機嫌な様子の愛の側に寄れば、どこかで花を摘んできたらしい。
きれいでしょ?と微笑む彼女につられて雲雀もうん、と言って笑った。
そんな愛の手を引いて公園まで来たのは良いが、そこにいたのは小学生。
それも運悪く、不良ぶった悪ガキであった。
無邪気にブランコへ駆ける愛が格好の餌食にされるのは、雲雀でも分かった。
ブランコに座る愛を囲む不良もどきに警戒心が無いのか、きれいなお花でしょ?と雲雀へ言うのと同じように話し掛ける。
なんて馬鹿なんだと雲雀が思ったと同時、不良もどきの一人が愛の手から花を引ったくり、踏みつけた。
やがて目に溢れる涙は、ふんわりとした紅い頬っぺたを流れる。
それを見て笑い出す不良もどき達。
しかしその内の一人が倒れると、一気に静まりかえる。
倒れた者の後ろに立っているのは、まだ自分達の腰ほどの背丈しかない、身なりの良い子供なのだから。
「ぼくのまえで…むれるな」
仲間がこんな小さな子供にやられたことに血が上り、一斉に掴み掛かる勢いで走り出す。
自分より体格も力も大きい相手をいとも簡単に放り投げたり、攻撃をかわしたり…。
いつの間にか愛の涙は止まっており、少々現実離れした光景をぽかんと見つめていた。
雲雀家の人間として、幼い頃から父親に鍛えられていたため、子供相手に負ける自信はなかった(彼も十分子供だが)
しかし、何時だって鍛錬は一対一。
喧嘩はそうはいかない。
一人に掴みかかった雲雀の背後にもう一人が立つ。
『きょーちゃあぁぁあんっ』
愛がまた涙を溢しながら、ブランコから飛び降りれば、着地に失敗して地面に突っ込んで行く。
しかし泥まみれになりつつも顔を上げれば、先程雲雀の背後に居た者が首根っこを掴んで雲雀が宙に浮いている姿が目に写る。
『きょーちゃあんっ』
小学生にぶら下げられている彼は必死にもがくが、腕も足も長さが当然足りず、意味がない。
その内笑いながら地面へと叩き付けられる。
『やめてっ』
愛の悲痛な叫びも笑いのネタにしかならない。
雲雀に駆け寄れば、周りの小学生たちがまた笑う。
「おじょーさーん、オレらと一緒に遊ぼうぜ!はははっ」
そう言って愛に触ろうと伸びる小学生の手を払ったのは雲雀だ。
「愛に、触るな」
「なんだ?その女の子、好きなのかぁ?」
「うるさい
愛は゛いいなずけ゛だから、ボクのお嫁さんになるんだ。
ボクが守らないといけないんだ」
「ガキが何言ってんだ……」
そこで、言葉が途切れた。
蹴り上げられた足を止めた、人物によって。
「父上っ」
『きょーちゃんパパ!』
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