小説
同窓会 3 (御崎)
八雲惣司は老け顔の高校生だった。
黒髪のままの艶やかな髪を後ろに撫で付けて 身体つきもしっかりがっしり。落ち着いていたし声も低音で一見すると30代位の…どっかの若頭的な…うん、少なくとも堅気の高校生には見えなかった。
片唇の端を上げて笑うのが癖で、太い眉に切れ長の目をした、美青年てよりは美丈夫。
子供の頃から多少武道はかじっていたのか 触らされた腕の太さと硬さを今でも覚えている。
太い首筋 太く長い指。 校舎裏で煙草を吹かす横顔。
お父さんてこんな感じかな、と まだ高校生である同級生を眺めながらいつも考えていた。失礼な話しだ。
八雲はあの頃とあまり変わらない。
変わったのは制服がビジネススーツに変わり、耳にずんと響くような低音の声が更に磨きがかかった位。ほんと洋画の吹き替えとかに良さそうな魅力的な声だと思う。女ならこれで耳元で口説かれたら一瞬で堕ちそうだ。
「 おい、哲。テメエ聞いてんのか。」
ちょっと学生時代に思いを馳せていたらいつの間にか距離を詰められていた。 至近距離、真正面、肌のキメまで見える近さ。 煙草の匂いとオーデコロンの混ざった匂い。
―… 懐かしい、匂いだ…
八雲はずっと香りを変えてはいなかった。即座に学生時代の様々なシーンが蘇って来て、俺は八雲と案外絡んでいたんだと思い出した。
昼飯も 帰り道も、休みの日に行った近所のコンビニで偶然遇った時も。
意外に 生活範囲のあちこちに八雲の姿があった事を思い、そして気付いた。
八雲が俺にたまに示したあの感情はやはり好意だったのか。
話してる時にやけに肩を抱かれたり ぽつりぽつりとした会話の途中で気付くと見つめられていたり 缶ジュースを渡してくれる手つきが優しかったり 遠くからでも俺を見つけて走って来たり… 。
あの頃にはよくわからなかった事が 今にして思い返すと すとん と腑に落ちる。
「 八雲、って… 俺が好きだったんだな…。」
声にはきっと驚きが混ざっている。
「 好き じゃねぇ。俺はお前を愛してて、お前は俺の恋人だった。」
「 …悪い、えっと…いつから?」
そこだけはどうも理解しづらい。
八雲が俺を好きだったのはわかったにしても、俺は八雲に想いを告げられた事も無ければ 応えた記憶も無いからだ。 一体いつ俺達は付き合い出したと言うのか…。
「 …お前だっていつも俺を見てたじゃねえか。遠くにいても真横にいる時も。あんな熱い目で見られてシカトなんて男じゃねぇだろ。だからいつでもお前を特別にしてたじゃねえか。」
んな事もわかんねえのか?みたいな呆れた視線を浴びせられるが、成る程 良くわかった。
「 …つまり、付き合おうとか そんなやり取りは… 」
「 俺達に言葉なんか要らなかっただろ。」
「 ……… 」
… やっぱりな。
記憶に無い筈だ。
全ては八雲の妄想だ。…いや、全てと言うか 確かに八雲にも憧れてる部分は大いにあった。 高原が恋愛の相手として思慕の対象ならば八雲は男としてこうありたたい、と言うような憧憬の対象だったのだ。けしてけして他意は無かった…いや、早くに亡くした父親の面影はたまに重ねていたフシはあるが けして色っぽい意味は無かった筈だ。
どうして八雲はここまで勘違いしてしまったんだろうか。
まじまじとその端正な男臭い顔を見つめてしまう。
「 … 何だよ、可愛い顔したって許さねえぞ。」
油断していたら両頬をでかい手で包まれて焦る。
「 …っ 八雲…、」
「 苦労、したんだなあ…。…すっかり痩せちまって。美人がモロバレじゃねえか。…あのぷよぷよのお前は可愛かったのによ…。」
「 …いや、これは別に… 。…ぷよぷよ… 」
「 柔らかい腕や頬っぺたがいつも可愛いくてよ。…いつかあのモチモチした腹に顔を埋めんのが夢だったのに…黙って居なくなったと思ったらこんなにガリガリになってきやがって…。」
困惑する俺の脳裏にある単語が浮かぶ。
「 … デブ専…?」
「 …ちげえ。お前専だ。」
八雲はきっぱり言い切ったが、俺を見下ろす瞳には明らかに残念、と言うような何かが込められているように見えた。
… こいつ絶対デブ専だ…。
「 ちげえってってんだろ。お前がたまたま可愛い体型だったからそういうのも良いなと思っただけだ。俺にそんな特殊性癖ねーよ。」
ここでギュッと抱き締められて 確認するようにあちこち触られる。
「 … こんな細っこく固くなりやがって…。可哀想によ… 」
「 … 」
もう何も言うまい。
こいつはこういう情に篤い男なんだ。 うん、そうだ。
とりあえず 下手に刺激したくない。ってのが正直なところ。
俺はクラスメートたちの面前で 八雲に抱き締められながら この抱擁を出来るだけ早く終わらせる手は無いのかと思い巡らせていた。
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