テニスの王子様shortstories
初雪
今日は朝から雪が降り続いていた。今年度の初雪は昨年度よりも積もるらしい。
シンシンと降り積もる雪の中、俺は少し後ろを歩いている男の方を振り向いた。
「ねえ、真田。」
ゆっくりと俺は口を開く。
今は二月。冬の真っ只中という感じだ。寒いのが苦手な俺としては雪が降るのはこの世の地獄のように感じる。
「む、なんだ幸村?」
最近、俺は1つ悩んでいることがあるんだ。それはコイツ。立海大附属中のテニス部副部長の真田弦一郎について。
俺達は男同士で付き合っている。もちろん、立海大テニス部のレギュラー軍は皆知っている。というか俺達の他にも男同士で付き合っている者達も居るし、ほとんど公認という感じだ。
「なんで最近シてくれないの?俺、真田から来てくれるの待ってたんだけど。」
「なっ…//」
顔を真っ赤に染める真田。いつもなら笑ってその顔を幸せに思いながら見つめられるけど、今日は違う。
俺は少し真田に怒っているんだ。
「…そ、それはすまなかった。し、しかし、俺は最近忙しくてな……」
………嘘をついている。昔から、真田は嘘を隠すのがヘタだった。
……浮気?それとも他に好きな人でもできたのか……?
…まさか……。いや、そんな筈ない。真田に限ってそんな……。
でも、最近の真田は妙におかしかった。
俺と二人きりでいる時もどこかソワソワしていて落ち着かず、部活終わりの放課後デートもこの頃めっきりしていない。
正直言ってめちゃめちゃむしゃくしゃする。
真田は…俺のことだけを考えて俺のそばにだけいればいいのに……────。
「なにそれ。もっと上手い言い訳とか思いつかなかったわけ?」
初めは特に気にしてなんていなかった。もともと真田とヤる回数はそこまで多くなかったから。
でも流石に10日間も続けてやらないなんていうことは今までに1度もなくて、ようやく俺は真田の様子がおかしいことに気づいたんだ。
「……はっきり言えばいいだろう?」
黙り込んでしまった真田に俺はそう言った。
「……俺に飽きたって。……何?他に好きな人でもできたの?でもそんなの…。」
「…っそんなわけないだろうっ。」
『許さないよ。』そう言おうとした。しかしその言葉は、真田によって遮られた。
「…じゃあ…っ。」
聞きたいこと、言いたいことは沢山ある。
なんで放課後のデート、避けるようになったの?
どうして、最近俺と居ても上の空なの?
なんでSEXしてくれないの?
ねえ、どうして……?
もう頭の中がいっぱいいっぱいで、壊れてしまいそうだ。
「………っどうして…っ。」
知らない間に涙が溢れていた。目の前にいる真田が動揺しているのが見て取れる。
「……幸村…。」
俺の名前を優しく呼ぶと、真田はゆっくりと俺を抱きしめた。
「…すまん。…俺は、ただ……幸村を喜ばせたくて……。」
え?…それ……。
「…っ…ど、いうこと?」
頭の中が既に混乱状態で、いつもの俺なら今の言葉で理解ができるものの、今日という今日は無理らしかった。
「…お前の誕生日まで、あと少しだろう?だからそのための……プ、プレゼントを見つけていたのだ…。」
その言葉を聞いて思わず流れていた涙が止まる。
プレゼント……?…しかも、俺の誕生日の………。
「…そ、れだけ?」
「む、それだけとはなんだ!俺は真剣にお前の事を思って……っ。」
ギュ……
「…バカ。」
思い切り、真田に抱きついた。真田の顔が赤くなっているのが手に取るように分かる。
おずおずと俺の背中に回された真田のたくましい腕が、やけに温かく感じた。
「…俺にとって、真田がいてくれるのが一番のプレゼントなんだけど…。」
『…わかってよ。』と、真田の胸に頭を押し付けながら小さな声でそう呟いた。
周りで降っている雪が、まるで俺達の事を隠すかのように降り積もる。
寒い。でも真田に抱きしめられている部分だけは温かく、さっきまでと打って変わってとても幸せな気分になった。
「…っ幸村。」
顔を赤く染めながらも、俺を真っ直ぐに見つめる目。
ああ、俺はこの目が……いや、真田が…大好きだ。
「約束しよう。俺は決してお前以外の奴を好きになんてならん。」
「っ…真田。」
そう言ってくれる真田の唇に軽いキスをした。
そうだった。この男はいつでも不器用だった。きっと今回の事も本当に俺のためを思って何日も前からプレゼントの準備をしてくれていたのだろう。
そう考えると急に真田への愛しさが増していくのが自分でもわかる。
この男の事を、俺は誰よりも愛しているんだ。
俺は真田の手を繋ぎ歩き出した。
顔を赤くしているであろう真田の方をみると、予想通り顔を赤く染めている。
なんとなく真田が大きな犬に見えて可愛い。
「ねえ、真田。」
俺がそう言うと、真田は顔を赤く染めたまま『なんだ?』と言った。
恋は盲目とは、よく言ったものだ。
「大好きっ。」
満面の笑みでそう言うや否か、真田は顔を余計に赤く染めながら『…俺もだ。』と言った。
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