Tell Me エルフの姫 「アナー!……おい、妹のアナはどこに行った?」 この城の者だろうか。だが、そこら中に沢山いる使用人の1人ではない。 長く綺麗な白金の髪は高い位置で結われ、端正な顔つきに加え、男らしい彫りの深い瞳は深い蒼色、ライトグレーの上質なローブはシルクのロングシャツも下に履いている深緑色のズボンをも隠すほど長い。 そう彼は…━━ 「の、ノエル第一王子っ!」 この国、エルフ国の第一王子なのだ。 「…え?アナ姫ですか? 確か、馬小屋に行かれるのを見ましたが……」 「ったく、また森に行きやがったな。」 「え?何故森へなんて……ああ。」 「そうだよ、まただ。 今度はペガサスを探すんだとよ。 ほれ、置き手紙。馬小屋行ったなら、もう帰ってくるの待つしかねぇな。」 そう言って踵を返したノエル。政務の途中でアナの侍女から例の置き手紙を渡されたのだ。 無理だと分かれば政務に戻るしかない。 ため息を吐きながら歩いて行く王子の後ろ姿に、お転婆な妹を持つのは大変だと思った、執事であった。 今日ものどかなエルフの国は3民族に分かれた世界の1つで、深い深い森の中で(人間にとっては樹海と呼ばれている)、自然と調和しながら暮らしている。 そんなエルフの国を治めているのは名高いブレスリン家だ。長く賢王を輩出し、民には全幅の信頼を得ている。 子宝にも恵まれ、男4人、女3人という大家族だ。だが、王室では日常茶飯事の王位継承問題も善の世界、エルフの国では、全く起きない。男であろうが、女であろうが、生まれた順番で王位継承が決まり、他の兄弟たちはそれぞれ好きに生きられるのだ。まあ、成年である16歳までは城に居なければいけないのだが。 そんなエルフの国の今の王はほぼ現役を退き、王位継承者の第一王子ノエルが政務を行っているのだ。 そんな忙しいはずのノエルが探しているのは…━━ 「あ、見っけー!…は、逃げられた。」 〈大声出すからだよ。〉 彼から15歳も離れていて、まだ未成年である末の妹、アナだ。 兄ノエルのようにチャコールグレーではあるが上質なローブを羽織り、白のロングドレスに茶色のブーツを身につけ、美しい端正な顔立ちにエルフの特徴でもある蒼い瞳とエルフでは珍しい亜麻色の長く真っ直ぐな髪を持ったエルフの姫、アナが白い愛馬ジンに跨がっている。 彼女は美しいエルフの中でもずば抜けて美しい。彼女は母にそっくりで兄弟の誰とも似ていないが、父譲りの蒼い瞳は兄弟の誰よりも澄んでいる。 周りは鬱蒼とした木が生い茂り、太陽の光さえ届かないこんな場所に何故いるのかというと、 「あっちよ。ジン早く!」 〈分かった、掴まっててっ。〉 彼女の目線の先の神獣、ペガサスを追っているから。 アナは図書室で城から北方の森にペガサスがいるという神獣の本を読み、本当にいるのか確かめたくなったのだ。 いつも疑問を感じるとすぐに直接確かめようとするアナ。 いつもは兄や姉たちが助けてくれるのだが、今回ばかりはさすがに無理なようだ。 「ま、迷った…。」 〈うん。そうみたいだね…。〉 さっきまでいたはずのペガサスはどこへやら、白昼なのに光が全くない暗闇にそこら中覆われている。 目先の距離にあるはずのジンの頭でさえ、ぼんやりとしか見えないのだ。周りを見渡しても、闇、闇、やみ。 どうしよう……。 何にも見えない。 ん?何か……あれは、ひかり?っ光! 「ジン!光よ、前へ!」 〈うん!良かった…。〉 闇にさす1つの光。 幸か不幸か、その光に導かれていった。 「良かったー、暗闇から出れて。ひと休みしてから戻る道探そう?」 〈うん。でも、ちょっと疲れちゃった。〉 「じゃあ、弓とか下ろすね。 …もしかして、野宿はないよね?」 一応、北方に来るから持ってきた毛布と護身用の弓矢をジンから下ろす。 決してペガサスを捕らえるために持ってきた訳ではない。護身用だ。 アナも少なからず疲れていてジンの隣に座ったはずがいつの間にか寄りかかって寝てしまった。 …━ 〈アナ、起きて。日が暮れる。〉 「…え?いつの間にか寝ちゃった…てか、もう夕方!?」 日は西に傾き始めている。 どこからか烏の声が聞こえてきた。 それに交じって変な気配もする。気持ちの悪い視線も…。 何か嫌な予感がする。 すぐにここから離れた方が良い。 「ジンっ!」 〈アナ、早くっ!!〉 走り始めたジンに、弓矢を掴んで飛び乗ったアナ。 少し遠くから足音、いや、蹄の音が3頭分聞こえてくる。 「ジン、追いかけてきたっ!! あれ、何なの?エルフじゃないよ!?」 〈分かんないよ!いっつも伝説やら神話読んでるじゃん!!馬に乗るヤツって何か知らないの!?〉 「馬…に、んげん?」 まさか、ここはエルフの森よ? 「おら、じょーちゃん待ちなっ!!」 「とって食いや、しねえからよ!」 「別の意味で食うくせによっ!ガハハ」 いつの間にか出てきた場所は見晴らしの良い、崖の上。 抜けてきた森からは下衆な男たちの声。 すぐにでも此処に来るだろう。 どうにも八方塞がりのようだ。 「ふぅ、仕方ない。身の危険を感じる以上、成敗するしかないわね。」 間合いをとるために崖っぷちまでジンを誘導し、弓を構える。 「来るなら来いっ!!」 [*前へ][次へ#] [戻る] |