危険地帯
5
章を追いかけて教室まで来た。
章は…机に突っ伏してて私は自分の席に後ろ向きに座った。
「章?どうかした?
俺で良かったら聞くけど…。」
章の柔らかいふわふわの髪の毛を触った。
「俺…夢を諦めなきゃいけないかも…」
小さく掠れた声で言った言葉に、ショックを隠しきれなかった。
どうして?
まだ何も始まってないのに、どうして諦めちゃうの?
「え…」
言いたいことはいっぱいあるのに、私の口からはそれしか出てこなかった。
帰り道、無言で歩いてく私たち。
「ねぇ、俺…さっき章に何て言って良いか分かんなくなっちゃって…でも、これだけは思ったよ。
何で始まってもないのに諦めちゃうの?
医者なりたいんでしょ?
ずっと夢見てきたんでしょ?」
少し前を歩く章の腕を引いて私の方を向かせて言った。
下を向いて首を横に振る章。
「ねえ…?」
私の肩に頭を乗せた。
「…俺の家、大病院なんだ。父さんは俺に医者じゃなくて経営にまわってほしいんだって。
この前の進路希望、父さんに文系に行くように言われた。
俺は…、医者になれないんだ。」
もたれてきた章の背中に手をまわした。
「お父さんには…言ったの?
医者になりたいって。」
首を横に振って私の腰に手をまわす。
「じゃあ、まだ何も始まってない。
お父さんに医者に、救命医になりたいって言うの。」
私をぎゅって苦しいくらいに抱き締めてくる。
「それからだよ。ね、章?」
肩の上で小さく頷いた気がした。
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