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危険地帯



「あー、まだ耳キンキンする〜。」


「ご、ごめんって…。」


私と章は今、寮に向かって歩いてる。
あの私を後ろから叩いたのは章だったんだ。

章の耳元で叫んじゃったらしく…ずっと耳が痛いって言ってる。



「そういえば、何であんな時間にいたの?電話してたみたいだけど。」


「ああ、いっちゃんとちょっと話しててね。

電話、聞こえたの?」


「え…、あ、うん。でも敬語だったってことくらいしか分かんなかったよ。」


話を変えようと思ったのに急に立ち止まって俯く章に困惑しちゃって適当なことが言えなかった。


「そっか…。

電話の相手、俺の父親なんだ。急に電話してきてびっくりだよね。」


笑ってるけど眉間に皺を寄せてる章は何だかツラそうだった。

お父さんなのに敬語なの…?






「そういえば、章はさ…、進路希望、文系と理系どっちにするの?」


「俺は、理系かな。」


「なんか、夢でもあるの?」


はっきりと言った章。
やりたいことがあるのかな?



「うん!俺ね、医者になりたいんだ。救命の。」


「救命の?」


「うん。俺さ、小っちゃい頃海で遭難しちゃって…発見されたとき、脈ほとんどなくて絶望的だったらしいんだ。

でも、救命に運ばれた俺を先生たちが必死になって治療してくれたんだって。
だから、俺も先生たちみたいにどんなに絶望的な人でも最後まで諦めない医者になりたいんだ。
それが俺の夢。」



そう言って笑った章はさっきまでのツラそうな顏じゃなくて清々しいくらいの笑顔で、そんな章が何だか羨ましく感じた。


「何か良いねっ!そういうの。

章ならなれるよ!頑張ってね!」


まだ何も知らなかった私は笑顔で応援してたんだ。



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