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Title
02.痛みだけが今の私に生きてる証をくれる(骸雲)





「いい加減にして!もう二度と来るな変質者!!」


バキィ!という嫌な音と共に僕の体は宙に浮いた。そんなに広くないドアを見事に通り抜け、派手に背中を壁に強く打ちつける。

ずいぶんとコントロールが良いようで…。さすが恭弥君。

痛みを紛らわそうとそんなことを考えても、やはり痛いものは痛い。骨が折れてないだけまだいいだろうか。
僕をそんな目に合わせた本人は無慈悲にもピシャリとドアを閉める。鍵のかかる音まではっきりと聞こえて、完璧に追い出されたことを悟った。


「困りましたね…。今日はピッキングツール持ってきていないのに」
「じゃあ、お前はいつももってきてるのか」
「そりゃ必須品ですから……って、おや?」


独り言のつもりだったのになぜか返事が返された。おかしい、まわりには誰もいないと思うのに。
するといきなり非常ベルのとびらが開いた。


「ちゃおっス、骸」
「あなたですかアルコバレーノ…。よく作りましたねそんなところに」
「まあな。オレに不可能はねーからな」


ぴょんっと身軽に降り立ったアルコバレーノは、壁に背を預けて座る僕の横にちょこんと腰掛けた。パッと見では愛らしい姿だが、この人物が愛らしさとは遠くかけ離れていることを残念ながら知っている。


「それにしても見事だったな。すげぇ跡残ってるぞ」
「ええ…、彼は全く手加減なんてしてくれませんからね」


そっと、先ほど殴り飛ばされた右頬に手を当てる。まだ熱をもちジクジクと痛んでいた。この分だと腫れるかもしれないと他人事のように思う。


「全く、そんな目に合わされてまでよくあいつと一緒にいたがるな」
「別に嫌じゃありませんからね。むしろこのほうがいいと思います」
「…Mだったのか?」
「そんなんじゃありませんよ」


まあ、アルコバレーノの言葉も僕のあの言い方では当然の考えだけど。
だけど、僕がマゾヒストだからという理由じゃない。


「僕の生い立ち、知っているでしょう?そのせいか平穏な日常には慣れないんです。だからといってまたあの日々に戻りたいなんて思いませんけど…、なんていうか、平和だと生きてる感じがしないんですよね」
「まあ、実戦のときとかはオレも生きてる実感わくけどな」「そんな感じですよ。だから平穏な日常の中に、こうした痛みがほしい。痛みだけが僕をこの世につなぎとめるんです」
「…ふん」


アルコバレーノは不意に立ち上がると、僕に向かって何かを投げつけてきた。僕の手中に収まったそれは鍵。


「アルコバレーノ…?」
「応接室の鍵だ。ならまた痛めつけられてくればいいじゃねえか。何度拒否られても諦めずにな。お前と雲雀の関係は面白いから応援してやるぞ」
「…感謝しますよ」
「ああ」


そう言ってアルコバレーノは姿を消す。僕は手におさまった鍵をぎゅっと握りしめた。


「…好意には甘えないと、ですね」


僕は口端を吊り上げながら、鍵穴に鍵を挿入して回した。








痛みだけが今の私に生きてる証をくれる
(その役目はぜひあなたに)




 



あきゅろす。
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