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すべてを捨てる勇気はまだなくて(骸綱)





「よしっ、これでおしまい!」


ベタッとダンボールにガムテープを貼り付ける。中身が満たされて重量を増したそれは2桁に近かった。
がらりと、物をなくした部屋。物がないと彼の部屋は意外に広かったことがわかった。それと同時にほんの少しさびしさを覚える。


「やっと終わりですか?全く、人をいきなり呼びつけたかと思えば荷物を詰めるのを手伝えだなんて…」
「ごめんごめん。オレ1人じゃ終わりそうになくってさ。骸が手伝ってくれて本当によかったよ」


そう言って笑った綱吉君は、悲しげな表情を隠しきれずにいた。

荷物を詰めていたこと。これは彼が引っ越しをするという理由ではない。似たようなものかもしれないが引っ越しなんて言葉では不充分だ。
彼は明日、僕やクロームを含める守護者を連れてイタリアへ発つ。正式にボンゴレ10代目のボスになる日がきたのだ。
だから荷造りをしていたのだという。僕には持っていくものなど何もないけれど。


「それにしても、こんなことを頼むのなら別に僕じゃなくたっていいでしょう。獄寺隼人や山本武を呼べばいいじゃないですか」
「ダメだよ。2人だって忙しいんだから」
「悪かったですねぇ僕は全然忙しくなくて」
「そんなこと言うなよ。それに骸に聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいこと?」


こくんと綱吉君はうなずく。この仕草はまだ幼さが残っていることがよくわかった。なのに、もうあんな重いことを背負うことになるだなんて。自分のことではないのに胸が痛む。

ダンボール箱を全て壁際によせた。ダンボール箱の中身のほとんどは処分することが決まっている。持っていくのは1箱か2箱だ。テーブルはもう片付けたらしい。この部屋にあるのはダンボール箱と、今日一晩使うだけのベットだった。このベットだって明日にはなくなってしまうのだ。僕らはそこに並んで腰を下ろした。


「それで、聞きたいこととはなんですか?」
「…お前、本当にこれでいいわけ?」
「……………はい?」


なんのことだかよくわからなかった。綱吉君はぎゅっと拳を強く握りしめる。


「だから、マフィアになることだよ。まだ骸はマフィアのこと憎んでるだろ…?」
「…ええ。まあ」
「なら……」
「綱吉君」
「んぅっ」


続きを言わせる前にその唇を自分のそれでふさぐ。ただ、触れるだけのキスだった。


「これは僕が望んだことです。それにその言葉は僕にではなく君にこそたずねたいですね」
「どういうことだよ」
「君は本当はマフィアになんかなりたくない。違いますか?」
「………っ」
「…沈黙は肯定ですね」
「でも」
「いいから」


細い体をぐいっと引っ張り胸におさめる。すっぽりとフィットした体が震えている理由は、拒絶ではない。


「あなたはまだボンゴレ10代目じゃない。ただの沢田綱吉だ。だから、泣いたっていい」
「……っく………」
「まだいいから。思う存分泣きなさい」
「…っわあぁああぁああああ!!!!!!」


生まれてからずっと過ごしてきた地。思い出がたくさんつまった物。
泣き崩れた綱吉君には、すべてを捨てるのはまだあまりに早すぎた。












すべてを捨てる勇気はまだなくて
(だって、そんなことできるはずがなかった)




 



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