過去篇
6
「そ‐なんだ。ごめん、そんな時に…」
「構わないさ。ひとりで寝てるのも退屈だからな」
浮竹は、そういえば、と呟いて部屋を見回した。
そして、布を被せられている何かを指差す。
「あれ、皆からもらったお見舞いの品なんだ。ひとりでは食べきれなくてな…。よかったら貰ってくれないか?」
布を捲ると、そこには大きなまんじゅうや色とりどりのお菓子が置かれていた。
「ねぇ、何?この小さいの…」
私は瓶に入れられた色とりどりの小さな何かを取って尋ねた。
「ん?あぁ、それは金平糖だよ。知らないのか…?」
「うん。初めて見た…。おまんじゅうとかは、食べたことあるけど…」
瓶を軽く振ってみる。
カランカランと音を立てて中の金平糖が跳ねた。
「ひとつ食べてみたらどうだ?」
「あ、うん。じゃあ…」
瓶の蓋を開けて金平糖を一粒取り出す。
ピンク色をした金平糖だ。
角度を変えながら少しだけ眺め、おそるおそる口に放り込んだ。
「甘い…」
口に放り込んだ瞬間、口の中に甘い味が広がった。
はじめは甘すぎると感じていたが、舐めているとそうでもなかった。
「おいしい…!」
「そうだろう?」
歯で噛み砕いて飲み込む。
ほどよい甘さが喉を通っていった。
「いいの?ほんとにコレ貰って…」
「ああ、もちろん。…それより、何か用事があって来たんじゃないのか?」
忘れてた。
「あ、うん。コレ…後で十三番隊に渡して下さいって書いてあったから」
書類を浮竹に渡す。
浮竹は真面目そうな顔をして書類を受け取り、頷いた。
「あぁ、確かに受け取った」
「…じゃあ私、隊舎に帰るね。体に障ったら悪いし…」
金平糖の瓶の蓋を閉め、ゆっくりと立ち上がる。
そして、ふとある事に気付いて部屋を見回した。
「ここ、浮竹しか使ってないの?」
遠くの方から声がするので、他の死神とはそれほど部屋は離れていないんだろうが、少し静かすぎる気がする。
「ここは自室だからな。それに、俺が寝込んでいる時は、隣の部屋の奴らが気を遣ってくれているんだ」
「……そ‐なんだ…」
私は瓶をぎゅっと抱いて再び部屋を見回す。
「寂しく、ないの…?」
私の問いに、浮竹は少し驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になって答えた。
「皆が見舞いに来てくれるからな。そこまででもないさ」
「………」
この人は、皆に慕われているんだな…。
私は体ごと浮竹の方に向いて、浮竹を見た。
「なまえ?」
「あのさ…また、来てもいい…?」
驚いた顔をすると思ったが、浮竹の表情は綺麗な笑顔だった。
「もちろん」
「!……ありがとう…!」
私も笑顔で返すと、またね、と短く別れを言って歩き出した。
襖を開けて部屋を出る前に「あ」と足を止める。
「今度来るときは、このお返しに何か持ってくるね」
金平糖を見せながら言い、浮竹の「あぁ」という返事を確認してから部屋を出て襖を閉めた。
*
「あ、卯ノ花隊長…?」
零番隊舎に戻ると、部屋の前に卯ノ花が立っていた。
声をかけると、私の方を振り向いて笑顔を向ける。
「どうしたんですか?」
「あなたに、渡したい物があって…」
卯ノ花は懐から一枚の紙を取り出した。
それは、笑顔で写っているなぎさんの写真だった。
「これは…?」
「草間凪が、四番隊副隊長になりたての頃に撮った写真です。その他には一枚もありませんでしたが…」
悲しそうな笑いを私に向けて言う卯ノ花に対して、私は笑顔で写真を受け取った。
「いえ、ありがとうございます…!大切に、します」
「…それはよかったです。それでは、私はこれで」
そんな私を見たからか、卯ノ花も笑顔になってこの場を去った。
「ありがとうございました…!」
卯ノ花に礼を言って、空を見上げる。
空は、雲一つ無い綺麗な青空だった。
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