過去篇
5
「ん……」
―朝
私は布団の中で目を開け、寝っ転がったまま背伸びをした。
窓から入る太陽の光が少し眩しい。
私は目をこすりながら、ゆっくりと体を起こして布団から出た。
明るくなった部屋を見回す。
朝気持ち良く目覚められたのは、本当に久しぶりのような気がする。
私は大きく深呼吸をして、準備をし始めた。
*
「………」
零番隊舎へ入って一番始めに目に入ったのは、机の上に置かれた大量の紙だった。
手に取って見てみると、全て書類のようだ。
ご丁寧に筆まで墨まで置かれている。
「これが仕事か…」
私はとりあえず椅子に座り、書類を一枚一枚片付けていった。
*
「あれ…?」
最後の書類を見てみると、ちょこんとメモ書きがされていた。
「えっと…『読み終わって裏面の欄に丸を記入したら、十三番隊に届けて下さい』…」
裏面の欄を見ると、零番隊を除いて十三番隊の所だけ丸がされていなかった。
私は不思議に思いながらも、内容をしっかりと読んで丸を記入し、部屋を出る。
十三番隊舎に行こう、と思って改めて気付いた。
「十三番隊舎の場所…知らないんだった…」
霊圧を探ろうとするが、たくさんの死神達がいて全く解らない。
私は誰か知ってる死神に尋ねうと思い、適当に歩き始めた。
*
「あ」
数分歩いた所で、書類を抱えて廊下を歩いている死神を見つけた。
「あの…」
「?…はい…って、ぅわああぁ!!」
私の方を振り向いたかと思うと、死神は抱えていた書類を撒き散らして尻餅をついていた。
その顔は明らかに脅えている。
「……あの……」
霊圧は風来坊に抑えてもらっている。
ならば、この死神が私に脅えている理由はただひとつ。
この前の事件だろう。
「十三番隊舎は…どこにありますか…?」
ここままではいつまでたっても話が進まないので、とりあえず尋ねてみた。
「じ、十三番隊舎なら…ここ、この角を曲がって、ずっと行った所にッ…あります…!」
言葉を詰まらせながらも、道を指差しながら答えてくれる。
顔は脅えているままだが。
「ありがとう、ございます…」
私は礼を言い、散らばった書類を集める。
手渡すのは無理そうだったので、整えて床に置いた。
「失礼します…」
目を合わさないで会釈して、早足で未だに尻餅をついている死神を横切っていった。
「………ハァ…」
角を曲がったところで小さな溜め息をつく。
流石にあそこまで脅えられたら少し傷付く。
自分のした事なのだから仕方無い、と無理矢理心の中で納得させ、再び歩き出す。
『大丈夫かぁ?溜め息つくと幸せが逃げるぜ?』
「…そうなの…?」
そっと手を口に当ててみる。
そういえば、最近溜め息ばっかりついてるような気がする。
「だから嫌な事しか起きないのかな‐…」
『かもな‐』
風来坊と話をしていたら、自然と笑顔が溢れてきた。
「じゃあ、もうつかない」
『お好きなよ‐に』
「ふふッ…ありがと…」
『なんだよ…いきなり…』
「ん‐ん。なんでもない」
会話でこんなに心が軽くなるなんて、知らなかった。
もう少し話していたかったが、十三番隊舎に着いたので仕方無く話を終わらせる。
「えと…みょうじなまえです。浮竹隊長はいますか?」
部屋の奥まで聞こえるように、声のボリュームを大きくして叫ぶ。
奥の方で咳き込む音が聞こえ、少し間を置いて返事が返ってきた。
「入ってくれ」
「あ、うん…」
ゆっくりと襖(ふすま)を開けて部屋の中に入る。
浮竹は先程まで寝ていたのか、今は上半身だけ起こしている。
私は襖を閉めて浮竹に近付いた。
「どうしたの?体調、悪いの…?」
そう尋ねると、浮竹は笑いながら答えた。
「昔から体が弱いんだ。だから、ほとんど一日中布団の中って日もあるし…」
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