過去篇
4
「ほうきならあっちだよ」
京楽が少し離れた所にある小さな小屋を指差して言う。
ふたりの死神達も顔を上げた。
「あ、ありがとう」
ふたりの死神達の横を通って、その小さな小屋に向かおうとする私を、京楽が肩を掴んで止めた。
「ボクも一緒に行くよ。君達はそうじを続けててね」
「「は、はいッ!」」
ふたりは凄い勢いで礼をし、そうじを再開した。
「すごいね。あんなに簡単にまとめられるなんて…」
京楽の横に並んで歩きながら、俯いて呟く。
「そんなことないよ。ボクよりしっかりしてる人なんて、そこら中にいるさ。そんな事よりも、どうしてほうきなんか探してたんだい?」
「…あ、いや、部屋が凄く埃っぽくて…」
苦笑いで京楽の方を見て言うと、京楽も苦笑いになった。
「あ〜、ず‐っと使っていなかったからねぇ〜」
小屋に着き、京楽が扉を開ける。
私は中に入り、壁に立て掛けられているほうきの中から、適当に一本取って出た。
「京楽はどこに行くの?」
扉を閉めている京楽の背中に向かって尋ねる。
「今から八番隊舎に行くんだよ。一応挨拶もしなくちゃなんないしね…」
「え…?今から?」
式典が終わったのは結構前だ。
家具を部屋から出したりしていたので、30分ぐらいだろう。
「なんでこんなに遅いの?」
「いや〜あの後、山じいに怒られちゃってさあ…」
京楽は苦笑いで答える。
"山じい"とは、多分山本総隊長のことだろう。
確かに、式典が終わった後、京楽が総隊長に呼ばれていたような気がする。
「ご、ごめん…急いでるのに…」
「い‐のい‐の。ボクが言い出した事なんだし」
京楽は私に笑いかけ、少し手を上げて背を向けた。
「そいじゃ、お互い頑張ろうね〜」
京楽はヒラヒラと手を振りながら、八番隊舎の方へと歩き始めた。
「うん。またね」
私も手を振り、零番隊舎に戻った。
*
再び布で口を覆い、部屋の奥から入り口に向かって埃をほうきで掃いていく。
何度も何度も往復して掃いたので、だいぶ綺麗になった。
私は廊下に出て、廊下の上の埃を地面に落としていった。
これで床の方は完璧だ。
私は庭へと出、風上の方へ立ってほうきの持ち手で、ソファを叩き始めた。
大量の埃が舞い上がる。
これでは、いくら離れているとはいっても、流石に迷惑だろう。
だが、一度手を止めて、舞い上がった埃を目で追っていくと、埃はそのまま舞い上がって、空へと消えていった。
少し不安ではあったが、仕方ない事なんだ、と心の中で呟いて、再び叩き始めた。
だんだん埃の出る量も減っていき、完全に出なくなったので、次のソファに移る。
机やタンスの埃は、ほうきで掃いて落とした後、布を水で濡らして固く絞り、綺麗に拭いた。
副官章は手で力強く叩く。
「はぁ‐…疲れた…」
全てを終え、背伸びをして体を伸ばす。
埃を舞い上がらせた後だったので、深呼吸をする気にはなれなかった。
「よし、運ぼっと…」
タンスの引き出しを戻し、次々と部屋に運び入れていく。
家具の配置には、それ程こだわりは無かったので、来たときと同じように配置した。
「はぁ‐…終わった‐!」
外に目をやると、少し薄暗くなっていた。
(…今日は仕事も無いし、疲れたから、もう寝よ…)
私は副官章をタンスの中に大切にしまうと、この隊舎に連れてこられる時に教えられた自室へと向かった。
もしかしてここも埃だらけなんじゃないか、と少し警戒しながら自室の扉を開ける。
ガラ…
私が部屋に入ってまずしたのは安堵の溜め息だった。
この部屋は、誰かが使っていたのか、既にそうじをしてくれたのか、どちらかは解らないが、とても綺麗である。
私は布団を敷いて、羽織と死覇装を脱ぎ、布団の上に倒れこんだ。
疲れきっていた私は、すぐに眠ってしまった。
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