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過去篇
3
隊長格の中には、誰も口を挟む者や、苦情を訴える者はいなかった。

総隊長は止まることなく話を続ける。

意外な反応に私は顔を上げた。

その時、総隊長の方を向いて話を聞いていたいた卯ノ花が、目に入った。


『堂々としていればいいんですよ』


四番隊舎内での卯ノ花の言葉が思い出される。


そうだ…いつまでもうじうじしていたって、しょうがない。

なぎさんも、きっとそう言うだろう。


私は、しっかりと顔を上げて、総隊長の話に集中した。






「ここが、零番隊舎になります」

「あ、はい、ありがとうございます…」

式典が終わり、私は一人の死神によって零番隊舎へと連れられた。

私が礼を言って頭を下げると、その死神も頭を下げて失礼します、と言うと、慌てた様子でその場を立ち去った。

私はそんな行動に、小さく溜め息をついて、部屋に入った。

床は畳。

少し長い机を挟むようにソファが並んでおり、奥には一人用の机と椅子があった。

壁際には、いくつかタンスが立っている。

誰も使っていなかったからか、少し埃っぽい感じがする。

私は扉の役割をしている障子を全開にして、ソファを強く叩いてみた。

「ぅわッ!ゴホッ…ゴホッ…!」

途端に、埃が舞い上がる。

何年使ってないんだ、と心の中で呟きながら、一時外に避難した。

私は手元にあった布で口を覆って後ろで固く結び、部屋の中に再び入って、ソファを引きずり出す。

そして、ソファを持ち上げ、庭のような何もない広場へ運んだ。

零番隊舎は他の隊舎と少し離れているようなので、外で埃を払おうと思ったのだ。

その他の家具もひとつひとつ運び出していく。

最後にタンスを運ぼうと、力を入れて持ち上げたとき、タンスの上にあった何かが床に落ち、再び埃が舞い上がった。

「わッ!」

私はタンスを下ろし、舞い上がった埃を手で払いながら、落ちた何かを拾い上げた。

ぱんぱんと軽く叩いて埃を払い、その何かを確認する。

「これは…」

零と書かれた五角形の木に、白い包帯のような布がついている。



 零番隊の副官章。



前に零番隊副隊長をやっていた人がここに置き忘れたのか、意図的に置いたのかは解らない。

私は副官章を持ったまま、タンスを持ち上げ、外へと運び出した。

「ふぅっ!」

腕を上げておもいっきり背伸びをする。

ふと空を見上げると、雲ひとつ無い青空が広がっていた。

その空を見上げていると、昔の事を思い出しそうになり、頭(かぶり)を振って無理矢理思考を中断させる。

「さてと…」

私はタンスの引き出しを全部出し、布を外すと、塀の方へと歩いていった。

そして、塀の上に手をかけ、腕の力で塀の上を飛び越える。

軽く着地し、近くにあった霊圧の方へと歩いていった。

角を曲がると、ふたりの死神が、掃除をしていた。

「あの、ほうきって、どこにあるんですか…?」

私がおそるおそる尋ねてみると、死神達は私を見るなり脅えた表情になり、小さく悲鳴を上げた。

「あ、あの…」

「ほ、ほうきなら…ッ!こ、こ、これをッ!お使い、下さい…!」

ふたりともが、深々と頭を下げてほうきを差し出してくる。

「あ、あの、そんな…大丈夫です。これくらい自分で取りに行くので…」

「そんなッ!みょうじ隊長にそのような手間をおかけするにはいきません!」

「で、でも…」

一向に頭を上げないふたりに、私がすっかり困っていると、後ろから誰かの足音がした。

振り向いてみると、少し離れて京楽がこっちに歩いて来るのが見えた。

京楽も私達に気付いたのか、口の両端を上げて笑いかけてきた。

「どうしたんだい?ごんなところで」

「あ、えと…ほうきを探してて…」

京楽は不思議そうな顔をして私とふたりの死神を交互に見、状況を判断したのか、再び笑顔になって私の方を見た。
 

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