過去篇
2
「えぇ。隊長位就任の方法は、隊首試験の合格、他隊長からの推薦と承認、現行隊長を一騎討ちで討つ…この3つです。あなたは他隊長からの推薦と承認をされています。なので…」
卯ノ花は私から羽織を取ると、ふわりと肩にかけた。
「あなたは堂々としていればいいのですよ」
「…はい…」
卯ノ花の笑顔を見ていると、なぎさんの笑顔を思い出す。
優しくて…暖かいあの笑顔…。
「あの…なぎさんは、見つかったんですか…?」
おそるおそる聞いてみる。
途端に卯ノ花の顔が曇り、見つからなかったのだと悟る。
「昨日、一日中探しましたが…見つからなかったそうです。…そして、捜索も中止することになりました」
「そんな…」
私は顔を伏せて呟いた。
卯ノ花はそんな私をなだめるように、頭の上に手を乗せて優しく撫でた。
「大丈夫ですよ。亡くなったわけではないのですから、また戻ってくるかもしれないでしょう?…その時、あなたがこんな顔だと、草間凪も悲しみますよ」
私は卯ノ花と目を合わせ、少し黙りこんで、小さく笑った。
「はい…!」
卯ノ花は満足したというような笑顔を私に向けて、扉の方を振り返った。
「さぁ、行きましょう。そろそろ式典も始まります」
「はい」
私と卯ノ花は、再び瞬歩を使って、式典会場となる一番隊舎へ向かったのだった。
*
「あ…」
「あ〜、あの時のお嬢ちゃんじゃないの」
一番隊舎の扉の前には、脱走した時に出会った、白い髪をした真面目そうな男と、茶髪の少しのほほんとした男が立っていた。
「お知りあい、なのですか?」
「あ、えと…脱走した時にちょっと…」
二人を見てみると、二人とも隊長格の羽織を羽織っていた。
「た、隊長さん…だったんですか…?」
「いや、俺達は今日からだよ。そういう君こそ…」
「あ、私も今日からです…」
私と白い髪の男が話していると、茶髪の男が割り込んできた。
「じゃあ同期ってことになるんだからさ、敬語はやめようよ。ボクは京楽春水。今日から八番隊の隊長になるんだ」
「俺は浮竹十四郎。俺は十三番隊の隊長だ。君は…」
二人に一斉に自己紹介をされ、覚えようと必死になっていたので、慌てて頭を切り替えて答える。
「わ、私はみょうじなまえです…じゃなくて…みょうじなまえ。今日から零番隊の隊長になることになったの…」
そういえば、敬語なしで話したのは初めてかもしれない。
「零番隊…?零番隊ってあの…」
浮竹が何かを言おうとしたが、その言葉は一番隊舎の扉が開く音によって、遮られた。
「さあ、行きましょう」
それだけ言って一番隊舎に入っていった卯ノ花を、3人は話すのを中断させて追った。
中には、隊長と副隊長が、中央を向いて並んで立っていた。
卯ノ花もその中に入る。
私は何も聞かされていないので、浮竹達の後ろをついて中に入った。
「皆、そろったかの」
後ろから、聞き覚えのある声が聞こえて振り返った。
そこには、一番隊であろう副隊長を連れた、山本総隊長が立っていた。
総隊長は、私達の横を通って、私達の前に立った。
「これより式典を始める。一昨日、瀞霊廷である騒動が起こった事は、存じておるな」
私の起こした事か、なぎさんが失踪した事か…はたまた両方の事かは解らないが、どっちにしても私に関係している事…。
表情が曇るのが、自分でも解った。
続けて総隊長が話をしていたが、全く耳に入って来ない。
私の起こした事が、浮竹や京楽にも、知られてしまう。
そうすれば、2人も私を軽蔑してしまうのか、と心の中で何度も繰り返される。
「…その戦闘力、その冷静さ、その他のあらゆる点から見て、その騒動の張本人である、みょうじなまえを零番隊隊長へ任ずる」
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